最新記事
ビジネス

日本の絵本が中国でケタ外れに売れる理由 世界が狙う巨大市場にどう切り込んだ?

2019年3月11日(月)15時00分
星野 渉(文化通信社専務取締役) *東洋経済オンラインからの転載

カントリーリスクとは別に、日本の多くの出版社が海外進出に慣れていないという課題もある。

日本の出版社は明治以来、欧米の出版物を輸入することには長けてきたが、国内市場で十分に食えたこともあって、マンガコンテンツを持つ大手出版社など一部を除き、海外への版権輸出は専門のエージェントに任せ、あえてリスクをとって直接出て行くことが少なかった。

実際に世界中で翻訳版が出ている村上春樹作品などを数多く手がける文芸出版大手の新潮社ですら、海外への版権輸出を扱う専門部署ができたのは、ほんの10年ほど前のことだ。

これは、成長著しい中国市場へのアプローチで欧米諸国などとの差としても現れる。昨年11月に開かれたアジア最大の児童図書展となった第6回中国上海国際児童図書展では、2013年の第1回に75社だった国外出展社は160社を超えたが、日本からの出展は2社にとどまった。

そのほか海外からは、フランス38社、イギリス19社、アメリカ13社、オーストラリア10社、韓国8社、イタリア8社、スペイン7社などが出展。なかでもイギリスの出版業界は中国を「最重要地域」に位置づけ、政府が中小出版社の出展に補助金を出して支援したという。

国内で売れ行き止まった本が売れ筋に

中国には出版に対する規制や、広大な国土ゆえの流通の難しさなど、出版を行ううえでのリスクはあるものの、日本の出版社にとって無視できない市場であることは間違いない。しかも、日本で売れ行きが落ち着いたロングセラーが新刊として売れている。

実際、いまの日本で大人気のポプラ社『かいけつゾロリ』は、まだ中国ではそれほど売れていない。日本でもこの作品は、当初、いわゆる「絵本」らしくない、マンガのようだと、親からはあまり歓迎されなかったが、いまや「子どもが欲しがる児童書№1」として刊行開始から30年を超えるベストセラーになった。

おそらく今後、中国でも子どもが作品を選ぶ時代が来れば、受け入れられる作品の幅がさらに広がる可能性もある。

こうした道を切り拓いていくことは、日本の出版社が持つ資産(コンテンツ)が、海外で新たな価値を生み出すという経済的な効果とともに、両国間で文化や価値観を共有することにもつながるであろう。それは、翻訳本を数多く受け入れてきた日本人こそが実感していることでもある。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マクロン氏「プーチン氏と対話必要」、用意あるとロ大

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中