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世界経済入門2019

トランプ「給料を高く高く高く」政策の成績表 米経済の不安材料は?

WHOSE ECONOMY IS IT?

2018年12月26日(水)16時15分
ビル・パウエル(本誌シニアエディター)、ニーナ・バーリー(政治担当記者)

米行政管理予算局の情報・規制問題室(OIRA)のネオミ・ラオ室長は2018年夏、トランプ政権下で削減された規制コストの金額は「これまでのところ約80億ドル」と述べている。莫大な金額に思えるかもしれないが、アメリカ経済の規模を考えればわずかな数字と言わざるを得ない。

トランプ政権下で削減された規制コストが比較的小規模にとどまっていることは、ある重要な現実を浮き彫りにしている。規制緩和には時間がかかるのだ。行政府が政策変更を行うためには、たいてい検討期間が必要だ。それに、多くの規制は法律で要求されているものだ。そのような規制をなくすには、議会が新しい法律を作らなくてはならない。

トランプ政権は大々的な規制緩和をぶち上げているが、実際には新しい規制の導入を遅らせることしかできていないのが現実だ。インディアナ大学の製造業政策イニシアチブのキース・ベルトン所長によれば、トランプ政権の下でも、連邦政府の規制によって発生しているコストは減るどころか、むしろ増えている。「増加のペースが歴代政権より緩やかになった」だけだ。

エコノミストの中には、いまアメリカ経済が「トランプ景気」のさなかにあるという考え方を鼻で笑う人たちもいる。

例えば、失業率の低下はオバマ政権の時代に既に始まっていた(オバマ時代のGDP成長率は今より低かったが)。トランプは、アフリカ系アメリカ人と中南米系の失業率が改善したことをしばしば強調するが、この傾向もオバマ政権の時代に既に始まっていた。「経済が絶好調だと言われたときは、思い出してほしい。景気回復が始まったのはいつなのか」と、オバマも最近の講演で述べている。

トランプは、21世紀のアメリカ経済が直面する最大の難題と言っても過言でない問題、すなわち賃金の停滞を解決してみせると、国民に約束してきた。2016年の大統領選では「史上最強の『雇用大統領』になる」と言い、「給料を高く高く高く引き上げる」と述べた。大統領に就任した後も、自らの減税策により、賃金は大幅に上昇すると請け合った。

この約束は現実になっていない。平均時給の伸び率も、物価の上昇を辛うじて埋め合わせる程度にすぎない。シモンズのような企業経営者の言い分によれば、賃金を少ししか引き上げてこなかった最大の理由は、市場における競争の厳しさにある。「コストは徹底的に抑え込まなくてはならない」というのだ。

ブルームバーグ・ニュースによると、共和党全国委員会が9月に実施した非公開の世論調査では、減税策が「中流層世帯」より「大企業と富裕層」を優遇していると考える人が有権者の60%を上回った。

「国民は賢い。減税で誰が得をしているのかと考えて、『ちょっと待てよ。私はまったく恩恵にあずかっていないぞ』と気付く」と、グールズビーは言う。「労働者ではなく企業に恩恵が及んでいるという一般的な見方は間違っていない」

<ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「世界経済入門2019」掲載>

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