最新記事

自動車

高級ミニバン決戦 エルグランドvs.アルファード・ヴェルファイア、勝敗の決め手は?

2018年6月21日(木)15時45分
御堀 直嗣(モータージャーナリスト)※東洋経済オンラインより転載

一方、アルファードは、ミニバン本来の価値を愚直に拡張していった。

まず上級車種としての静粛性や乗り心地が、クラウンやセルシオ(レクサスLS)の価値同様に改善され続けた。また、2列目の座席の前後移動量を増やし、足元を広々とさせることにより、あたかもストレッチリムジンに乗車しているかのような心地よさを味わわせた。それを実現するため、2列目のキャプテンシート(一人掛け座席)の左右をいったん内側へ寄せ、後輪の出っ張りを避けて後ろへさらに下げられるような機構も編み出した。

そのような2列目の快適性向上は、仲間や家族連れの同乗者向けというより、要人のための後席空間といった趣を与え、会社役員や政治家、あるいはハイヤーとしての活用などにも魅力をもたらした。

後席の快適性向上や新たな用途開拓のほかに、あえて走行性能は標榜しないものの、世代を重ねるごとにアルファードの運転感覚はより操縦安定性の高いものになっていく。操縦安定性に優れなければ、後席の乗り心地が改善されず、何のために快適な後席空間を演出したかわからなくなるからだ。

2世代目になるとヴェルファイアが加わる

2008年の2世代目になると、アルファードのほかにヴェルファイアが加わる。実は、初代のアルファード時代にも、販売店網の違いによって車名のあとにGやVのアルファベットを付け区別していたのを、車名として分けたのである。

同時に、顔つきを大きく変えた。ヴェルファイアは、よりきつい顔つきにして押し出しを強くした。それはあたかも、軽自動車で人気を得るようになったメッキを多用するドヤ顔を真似るかのようであった。しかし、それが功を奏する。

軽自動車の場合も、実はそのドヤ顔的な車種を女性が好む傾向がある。それによって軽自動車の存在感を高め、小さなクルマだからと無視されにくくなり、被視認性が高まることで安全や安心につながる効果が生まれた。

上級ミニバンとして、より存在感を強めたい顧客の志向にヴェルファイアの顔つきが的中することになる。同時に、控えめで落ち着きを覚えさせるアルファードとの差別化ができた。

日産のエルグランドも、2010年の3世代目でいよいよFF化された。アルファード同様に後席の快適性がより充実された。だが、アル・ヴェルによって志向の異なる上級ミニバン客をすっかり獲得されてしまったあとでは、エルグランドの付け入る隙は限られていた。

現行アル・ヴェルの登場は2015年。非公式ながら次期エルグランドのフルモデルチェンジは2019年ごろと自動車系メディアが報じている。内外装のデザインや快適性の向上などのほか、コンパクトカー「ノート」や中級ミニバン「セレナ」で先行した「e-POWER」や「プロパイロット」など、いま日産が市場で注目される技術による低燃費や運転支援を実現する最新技術の投入などにより、大きく魅力を増さない限り、エルグランドは当面、アル・ヴェルに圧倒される展開が続くだろう。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米のガザ停戦案受け入れ

ビジネス

インドネシア新財務相、8%成長も「不可能ではない」

ビジネス

インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相を解任、後任にプ

ワールド

対ロ制裁は効果ない、ウクライナ戦争で方針変えず=ク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給与は「最低賃金の3分の1」以下、未払いも
  • 4
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 7
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 8
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 9
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 10
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中