最新記事

日本を置き去りにする 作らない製造業

日本の製造業がインダストリー4.0に期待するのは「危険な発想」

2017年12月13日(水)18時04分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

11月10日、製品検査データの偽装について記者会見で謝罪した神戸製鋼所の川崎博也会長兼社長(中央)ら  Toru Hanai-REUTERS


20171219cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版12月12日発売号(2017年12月19日号)は「日本を置き去りにする 作らない製造業」特集。ものづくり神話の崩壊にうろたえるニッポン。中国の「自社で作らない」、ドイツの「人間が作らない」という2つの「製造業革命」を取り上げたこの特集から、凋落の日本製造業への処方箋を聞いたインタビュー記事を転載する>

日本のものづくりに黄信号がともるなか、信頼性を揺るがす不祥事が多発している。何が問題で、どうすれば復活できるのか。コンサルティング会社ローランド・ベルガーの日本法人会長で、製造業に詳しい経営コンサルタントの遠藤 功にジャーナリストの高口康太が聞いた。

◇ ◇ ◇

――神戸製鋼所のデータ偽装問題など、日本の製造業は暗いニュースが続いている。

個別企業ではなく構造的な問題だ。要因は3点に整理できる。第1に「世界最高品質追求の圧力」。コモディティ化した汎用製品では韓国勢、中国勢に勝てない。だから高付加価値を追求するという戦略自体は間違っていないが、それが現場に大きなプレッシャーをかけてしまう。

その最前線で「現場力が喪失」している。これが第2のポイントだ。従業員数の削減、非正規社員の増加、定年に伴う技能継承の失敗、設備投資の抑制......。世界最高品質の実現には最高の現場力が前提となるが、その土台が疲弊している。

――現場力の回復は可能か。

ボトムアップの能力を持つ現場はトップダウンでしか作れない。経営者が現場と対話し、長期的なビジョンを持って積極的な設備投資と人材育成を行っていくしかない。

ところが今の経営者は現場に目を向けていない。第3のポイント、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)のゆがみ」だ。国際化の名の下、「攻め」のコーポレート・ガバナンスが強調されるようになった結果、株主を気にして短期的な利益目標ばかりを追い求めるようになってしまった。

――コーポレート・ガバナンスが問題だと。

そのものではなく、コーポレート・ガバナンスの近視眼的な受容がゆがみをもたらした。アメリカではアマゾンが創業以来赤字決算を連発しても企業価値は高まるばかりだ。経営者のジェフ・ベゾスの長期的な戦略が理解されているからだ。

日本の経営者には彼のように長期的なビジョン、夢や理想を語れる人物が少ない。だから利益を上げても積極的な設備投資ができず、内部留保として積み上げるしかなくなっている。

【参考記事】「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営者が語る

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中