最新記事

中国経済

遊び心と技術が小売りを変える!? 売上約3兆円のアリババ独身の日セール

2017年11月20日(月)11時17分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

前者は数時間おきに画面上にお年玉袋が噴出し、それを指でなぞるとポイントを獲得できるというもの。セール期間中にアプリを何度も起動させ、衝動買いを誘うのが目的だ。後者はポケモンGOに似たデザインで、街中に隠れている猫を捕まえるとTモールで使えるクーポンがもらえるという仕組みだった。プロモーションの一環としてゲームを使うのはまだ理解できるが、数億人がインストールしているショッピングアプリにゲームを実装するのはなんとも大胆だ。

この猫集めゲームは今年のテーマである「ニューリテール」と深く関わっている。「ニューリテール」(新小売り)とはインターネットやビッグデータの活用により、伝統的な小売業をアップグレードするというコンセプトだ。特に今年はオンラインとオフラインの融合という切り口でさまざまな試みが見られた。

猫集めゲームは街中に隠れている猫を集めるゲームだが、セールと連動した期間限定店舗「快閃店」(ポップアップショップ)など「独身の日」セール関連の場所では猫が出現しやすい仕組みとなっている。効率よくクーポンを獲得するためには、リアル店舗を実際に訪問しなければならないというわけだ。

他にもネットモールと実店舗の在庫を統一管理するスマート店舗、自販機型の口紅サンプル提供機(格安でサンプルを購入できるが、顧客登録が条件)、ネットで人気の商品を集めたセレクトショップなど、さまざまな「ニューリテール」企画が実施された。「双十一」セールの発表地となった上海では各地にニューリテール店舗が登場し、さながら街全体が新技術の見本市と化した感すらあった。

日本では独身の日セールの取引額ばかりに注目が集まるが、アリババはこのビッグイベントを、モバイル決済や越境ECなど新たな取り組みを広める起爆剤として活用してきた歴史がある。今後、オンラインとオフラインの融合がどれだけ加速するかが注目点となりそうだ。

takaguchi171120-2.jpg

自販機型の口紅サンプル提供機から出てきた商品(写真提供:アリババ)

takaguchi171120-3.jpg

初のスマート店舗「Aline de rose」。店舗内に設置されたディスプレイでネットショップの顧客評価が確認できるほか、QRコードを読み込む(下写真)ことでその場でネット注文が可能(写真提供:アリババ。下写真も)

takaguchi171120-4.jpg

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、クックFRB理事を異例の解任 住宅ロー

ワールド

トランプ米政権、前政権の風力発電事業承認を取り消し

ワールド

豪中銀、今後の追加利下げを予想 ペースは未定=8月

ワールド

エルサルバドルへ誤送還の男性、再び身柄拘束 ウガン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中