最新記事

M&A

米製薬ファイザー、1600億ドルでアイルランドのアラガンを買収 世界最大手誕生へ

買収後のファイザー本社をアイルランドに移すことに「税金逃れ」と批判の声

2015年11月24日(火)10時44分

11月23日、米製薬ファイザーは同業アラガンを約1600億ドルで買収することで合意した(2015年 ロイター/Carlo Allegri/Thomas White/Files)

 米製薬大手ファイザーは23日、アイルランドに本社を置く同業アラガンを約1600億ドルで買収することで合意した。買収により世界最大の製薬会社が誕生する。米国より法人税率が低いアイルランドに本社を移すことで税負担軽減の狙いもあると見られる。

 1株あたりの買収額は363.63ドル。アラガンの前営業終値は312.46ドルだった。買収規模はヘルスセクターで過去最大となる。

 アラガンの株主は1株あたり新会社の株式11.3株を受け取る。ファイザーの株主は現金もしくは、ファイザー株1株あたり新会社の株式1株を受け取る。ただ現金の部分は総額60億─120億ドルの範囲内とする。

 手続き上はアラガンによるファイザーの買収となるほか、2016年下半期と見込まれる買収手続き完了後は本社はアラガンの本社があるアイルランドに移される。ただ新会社の主導権を持つのはファイザーで、ファイザーのイアン・リード最高経営責任者(CEO)が新会社のトップを務め、アラガンのブレント・ソンダースCEOが最高執行責任者(COO)に就く。

 アイルランドの法人税率は12.5%と米国の35%より大幅に低く、今回合意された案件はタックス・インバージョン(課税逆転)としては最大規模となる。

 2016年米大統領選の民主党最有力候補のヒラリー・クリントン前国務長官は、こうした動きを阻止する措置を導入することを確約。同じく民主党候補のバーニー・サンダース氏はオバマ政権に対し同買収案件を阻止するよう訴えた。オバマ大統領自身もこれまでにタックス・インバージョンに対する措置を講じる姿勢を示している。

 23日終盤の米株式市場でファイザーの株価は前営業日終値比2.7%安の31.31ドル近辺、アラガンの米市場上場株は3.1%安の302.7ドル近辺で推移。コスト削減効果が期待されたよりも小さいことが嫌気されたほか、ファイザーが今回の買収により利益率の低い事業を分社化するかどうかの決定を2018年終盤まで2年先送りしたことも売り要因となった。

 ガベリ・ファンズのポートフォリオ・マネジャー、ジェフ・ジョナス氏は、決定の先送りは「保守的」だとし、こうした動きに失望したとしている。このほか、経費削減や自社株買いなどについても失望感が広がっており、コーウェンのアナリスト、スティーブ・スカラ氏は「20億ドルとしている3年目のシナジー効果は、1年目で40億ドルのシナジー効果が得られるとのわれわれの予想を下回っている」と指摘した。

 ファイザーの主力医薬品は性的不全治療薬「バイアグラ」のほか、高脂血症治療薬「リピトール」、疼痛治療剤「リリカ」など。アラガンはしわとり薬「ボトックス」のほか、アルツハイマー病やドライアイなどのの治療薬に強みを持つ。

 操業166年のファイザーにとり、アラガンの買収は過去15年で4件目の買収案件となる。

 

[ニューヨーク 23日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子、ホッキョクグマが取った「まさかの行動」にSNS大爆笑
  • 3
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラドール2匹の深い絆
  • 4
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    海上ヴィラで撮影中、スマホが夜の海に落下...女性が…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中