最新記事

中南米

アルゼンチン危機、再発のお寒い背景

6度目のデフォルト危機に直面した政府は、領土問題で国民の目をそらそうとするばかり

2014年1月28日(火)16時06分
アレクサンダー・ボッテング

経済無策 キルチネル大統領はフォークランドの領有権を主張するが Reuters

 タンゴにマラドーナにメッシ......。世界を魅了する多くの文化やスターを生んできた中南米第2の大国、アルゼンチン。だが残念なことに、この国の人々はいつもリーダーシップに欠ける指導者を選びがちだ。

 その最たる例がキルチネル現大統領だが、アルゼンチンの低い基準からしても彼女の指導力はお粗末としかいいようがない。何年にも及ぶ経済政策の失敗によりアルゼンチンの経済は崩壊寸前。長期国債の利回りは10.5%で、危機の最中にあるギリシャ国債を上回る。

 昨年10月、アメリカの最高裁判所はアルゼンチンの2001年のデフォルト(債務不履行)にまつわる訴訟に関する同国の上訴を棄却。150億ドル相当の債券保有者への支払いと罰金を命じた下級審の判決を支持した。

 一方、IMFはアルゼンチン政府がでたらめな経済統計を13年度末までに是正しなければ厳しい制裁を科すと警告した。IMF発表の13年の推定インフレ率は10.84%だが、実態は26%に達するとみられ、通貨ペソにとどめを刺す可能性もある。

 とはいえでたらめな経済運営は、アルゼンチンにとっていつものこと。1951年以来、5回のデフォルトを経験し、「デフォルトの常連国」と揶揄する声もある。
忍び寄る通貨危機、警官のストライキ、全国的な略奪が頻発するなかで、国民は大統領に何を期待できるのか。最も可能性が高いのは領有権問題に焦点を当て、経済問題から国民の目をそらすことだ。

 キルチネル政権は、フォークランド諸島(アルゼンチン名マルビナス諸島)の領有権を強硬に主張し続けるだろう。昨年フォークランドで行われた住民投票では、99%がイギリスの保護領にとどまることを望んだにもかかわらず、だ。

 キルチネル率いる与党連合「勝利のための戦線」は昨年10月の中間選挙で大敗を喫したが、大統領に関しては15年まで選挙がない。アルゼンチンの有権者にとっては、今この瞬間も耐え難いというのに。

From GlobalPost.com特約

[2014年1月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中