最新記事

新市場

海外投資家を遠ざけるミャンマー宗派対立

民主化しつつあるはずのフロンティアで続く仏教徒とイスラム教徒の衝突事件

2013年10月17日(木)15時16分
ソフィー・ソン

悪夢 ラカイン州にある自宅の焼け跡で私物を探す男性(10月2日) Soe Zeya Tun-Reuters

 ミャンマー(ビルマ)では宗教間の暴動が全国で散発し、経済・政治改革に支障をもたらしかねない状況にある。

 西部ラカイン州タンドゥエ地区では先週、数百人の仏教徒が民家に放火し、イスラム教徒5人が死亡する事件が発生した。宗教対立が際立つ同地区では、これまでに推定300人の住民が避難を余儀なくされている。

「主にイスラム教徒を標的とした暴力が続いている原因は、同国の政治・経済・社会基盤にある」と、国際政治コンサルティング会社ユーラシア・グループのクリスチャン・ルイスは言う。「特にイスラム人口が集中するラカイン州や、バゴー管区からマンダレー管区にかけての商業地区の一部地域では当面、問題の解決は無理だろう」

 ルイスによれば、異なる民族グループや宗教グループの間に複雑で根強い対立があるため、どこで暴動が起こるかを正確に予測するのは難しいという。これらの州ではソーシャルメディアの影響で、1つの衝突がより幅広い地域規模の問題へと、あっという間にエスカレートしかねない。

 続発する暴動のせいで、地元の商業活動が停止するだけでなく、軍政から脱却し民主化を目指してきたミャンマーの評判にも大きな影を落としている。

 ミャンマーは「民主化を果たしつつある国」として海外からの投資を誘致している。今年は前例のない規模の外国投資を呼び込んだが、多くの外国企業は依然、ミャンマーの社会的・政治的安定に懐疑的。進出すべきかどうか、様子見を続けている状態だ。

 一連の宗教暴動で「安全な投資先としてのミャンマーの評判に付いた傷は深刻だ」とルイスは言う。

 問題の1つは、ミャンマー政府に地域紛争や宗派対立に対処する十分な経験がないことだ。だが、諸外国から必要な知識を得ることはできる。「諸外国から治安部隊の再訓練を受ければ、プラスの効果が生まれるはずだ」と、ルイスは指摘する。

 実際、ミャンマーは既に複数のEU加盟国や国際刑事警察機構といった国際組織との間で、暴動への対処法や治安部隊の活用法改善を目指す取り決めを交わしている。

「様子見」を続ける外国企業から愛想を尽かされたら死活問題だ。すぐにでも改善に向けて動き出す必要があるだろう。

[2013年10月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中