最新記事

経営者

バーバリー美人CEO、アップル重役に抜擢の真相

トレンチコート・ブランドからの意外なヘッドハントはアップルの中国戦略加速の狼煙

2013年10月17日(木)15時13分
マシュー・イグレシアス

救世主? 新興国市場での販売戦略に実績のあるアーレンズ Luke MacGregor-Reuters

  高級ファッションブランド、バーバリーのCEOアンジェラ・アーレンズがアップルの新しい販売戦略部門の責任者に抜擢された。アップルは彼女を起用することで、会社に空いた幾つかの「穴」をふさぐことができるだろう。

 まずは、この部門の責任者が長らく不在という問題が解消する。それに、経営陣は深刻な女性不足が続いていたのでその問題も解決するだろう。ただ、アップルが彼女を抜擢した本当の理由を知りたいなら、この2社の世界展開地図を比べてみる必要がある。

 アメリカ国内では、バーバリーは66店舗とアップルに比べるとおとなしい(アップルは250店舗)。だが香港では逆にバーバリーが15店舗。アップルは3店舗しかない。中国本土でもその違いは明らかだ。アップルは全部で8店舗だが、バーバリーは上海だけで7店舗を展開していて北京にも6店舗ある。大連にもハルピンにも杭州にも、それにウルムチにまで進出している。

 つまり、アーレンズがアップルの販売戦略にもたらすことができるもの――それはアジアでの存在感を高めるノウハウだ。

 アップルの販売戦略部門はこのところちょっと奇妙だ。かつての責任者だったロン・ジョンソンが大手デパートのJ・C・ペニーのCEOになるためにずいぶん前に辞めた。イギリスの大手家電量販店の経営者だったジョン・ブロウェットが彼の後任になったが、早々にクビになった。アップルのようなハイエンド製品を作りデザインに敏感な会社にとって、彼らのスタイルは不似合いだった。

 その後、アップル内部からの候補者として有力視されていたジェリー・マクドーガルも1月に退社した。ただ、こうした経営陣の混乱にもかかわらず世界市場におけるアップルの海外店舗の状況は悪くない。悪くないどころか良好だ。世界中でもっとも上手くいっている企業の1つと言ってもいい。どの指標で見ても圧倒的に成功している。

 だからこそアップルは新しい販売店をもっと作らなければダメだ。とにかく沢山だ。アメリカ国内には、もう目ぼしい地域はあまり残っていない(もっとも、ワシントンDCのダウンタウンにもう1店舗作ることを提案するが)。世界の人口分布と経済成長を考えたら、販売拡大を行う地域がアジアというのは理にかなったことだ。

 つまり、アジアの地域をよく知っている幹部が欲しい、ということになる。中国の昆明のどの場所がよさそうで、だめなのかを見極められるような知識だ。少なくとも、目ぼしい地域を探し出せる人物が必要になる。

 アーレンズはこの条件にピッタリ合う。アメリカ人の彼女は、高所得者層向けの誰もが知るブランド企業を経営してきた実績があり、アジアでの店舗拡大に力を入れてきた。これこそ、アップルの販売戦略部門に必要なことだ。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中