最新記事

新興市場

インド「ジェネリック医薬品を無料提供」の波紋

ジェネリック医薬品を無料提供するというインド政府の新計画は、製薬会社に打撃を与えるか

2012年7月9日(月)16時58分
プリヤンカ・ボガニ

タダで提供 インドの病院で患者に無料で薬を提供する薬剤師(7月3日、コルカタ) Rupak De Chowdhuri-Reuters

 必要な薬を買えない貧しいインド国民に、嬉しいニュースが舞い込んできた。インド政府はこのほど、全国民に無料でジェネリック医薬品(後発医薬品)を提供する計画を明らかにした。ロイター通信によれば、この計画の予算は54億ドルに上り、その配分先は数週間以内に発表される見通しだ。同計画は昨年承認されていたが、これまで公表されていなかったという。

 これによって、公的医療機関で働く医師はすべての患者に無料でジェネリック医薬品を処方できるようになる。インド国民が、薬を今より手に入れやすくなることは明らかだ。ただし医師が処方できる薬は一部のジェネリック薬品に限定されていて、商標登録された薬を処方した医師は処罰される。

 インドの医薬品業界は世界有数の成長市場であるため、この計画が大手製薬会社にとって痛手になる可能性があると、ロイター通信は伝えた。

 インドの英字日刊紙タイムズ・オブ・インディアによれば、インドの製薬業界はこの動きを歓迎している。インド製薬連盟のディリップ・G・シャー事務局長は、「政府が社会の弱者に薬を無料で提供するという試みなら、いつでも大歓迎だ。われわれはこの動きを支持する」と述べた。

急成長するジェネリック医薬品市場

 英フィナンシャル・タイムズ紙は、8億人が1日2ドル以下の生活を送るインドで、薬の無料提供の恩恵を受ける国民は2017年までに52%に達すると指摘する。アナリストたちは、この計画によって外資系の製薬企業が及び腰になることはないとみている。計画が対象としているのは貧困層や地方の住民なのに対し、外資系の製薬企業が狙うのは富裕層と都市部の市民だからだ。

 インド政府は今年3月、ドイツの製薬会社バイエルが生産している抗がん剤のジェネリック版をインドの製薬会社ナトコ・ファーマが生産することを許可。市場に出回っている薬は高過ぎて買えないというのがその理由だ。

 インドのジェネリック医薬品市場は急成長中で、その輸出規模は110億ドルに上る。インド特許法は95年以前に開発された医薬品について何の保護条項も設けておらず、今年は特許が切れる医薬品が多いという。ジェネリック医薬品メーカーが、このチャンスに食いつくのは間違いない。

From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マネーストックM3、11月は1.2%増 貸出増で7

ビジネス

マグナム・アイスの甘くない上場、時価総額は予想下回

ビジネス

ボーイング、スピリット・エアロ買収を完了 供給網大

ワールド

米NJ連邦地検トップが辞任、トランプ氏の元弁護士
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 10
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中