最新記事

格差

バンコクの最新ホテルは「反デモ隊仕様」

高級ブランド地区にオープンする超高級ホテルが建築にまでデモ隊対策を取り込まなくならないタイの治安事情

2012年3月6日(火)17時47分
パトリック・ウィン

階級闘争 ルイ・ヴィトンの店舗前で政権打倒を訴えるデモ隊(10年4月) Eric Gaillard-Reuters

 ウォルドルフ=アストリアといえばマンハッタンのパーク・アベニューに位置し、世界各国の首脳や著名人が訪れる絢爛豪華な超高級ホテル。ヒルトングループの最高峰に君臨するこのホテルは今、バンコク中心部での開業を計画しているが、一番のウリはなんとデモ隊の攻撃に耐える造りだという。

 デモに負けないホテル? 詳細はまだわからないが、バンコク・ポスト紙によれば、どうやらデモ隊対策が何らかの形で「建築デザインに織り込まれる」らしい。

 バンコクではこの数年、失脚したタクシン元首相を支持する農村出身者が多い「赤シャツ隊」と、都市部のエリート層を中心とする「黄シャツ隊」が抗議デモを繰り返し、たびたび暴動に発展。多くの死傷者が出ている。

 ホテルのディベロッパーは、1億9600万ドルを投じて60階建てのホテルと住居用タワーを建設しても元が取れるだけの富裕層マーケットがバンコクにはあると自信をもっている。ただし、ウォルドルフ=アストリアが将来的にデモ隊の攻撃対象になりえるという不安はぬぐえないようだ。

 計画通りに事が進めば、ホテルと住居棟が建設されるのは、高級ブランドのショッピングモールがひしめくラッチャプラソーンの交差点付近。デモ隊の暴力行為がとりわけ激しかった地域だ。

 2010年には、アピシット政権(当時)の打倒を掲げる「赤シャツ隊」が針金や竹、古タイヤなどでバリケードを築き、このエリアの通りを封鎖。政府軍が武力を行使してデモ隊の野営地を強制排除するまで、彼らの背後に輝くルイ・ヴィトンやバーバリーの看板は、「エリートvs.庶民」の階級闘争を象徴する格好のサインとして世界中に報じられた。

 暴徒化したデモ隊にゴージャスな施設を台無しにされたくなかったら、ウォルドルフ=アストリアはパタヤの「ロイヤルクリフビーチーリゾート」にアドバイスを求めるといい。09年に赤シャツ隊の攻撃を受けた高級リゾートホテルだ。

 記者は事件の数週間後に、同ホテルのマーケティング責任者ビクター・クリベンツォフと話をしたが、彼はまったく動じない様子で事件を笑い飛ばした。ホテルを守るためにはタイ海軍を呼びつけた、ブルネイ国王はマシンガンで武装した自国の警備隊に守られていた、そうすれば何も恐れることはない、と──。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中