最新記事

欧州債務危機

EUを救う中国マネーの真の狙い

欧州経済の崩壊を防ぐため、中国が巨額の資金拠出に乗り出すとの憶測が高まっている。本当だとすれば、中国が見返りに求めるものとは

2011年10月31日(月)16時26分
キャスリーン・マクラフリン

投資のリターン 中国はEU市場における有利な立場をカネで買いたい? Reuters

 ヨーロッパの信用不安を食い止めるために、あの国が救いの手を差し伸べてくれたら──EU関係者がそう望みを託す国がある。中国だ。

 ヨーロッパの債務問題解決の鍵を握るとされる欧州金融安定基金(EFSF)CEOのクラウス・レグリングは先週、北京を訪問。彼の説明によれば、訪問の目的はEUの債権を購入する可能性のある金融機関や中国当局者を口説き落とす「お決まりの会合」に出席することだ。

 先日行われたEU首脳会議では、ギリシャなど財務の脆弱な国家を支え、ヨーロッパ経済の崩壊を防ぐために、EFSFの支援機能を現行の3倍となる1兆ユーロ規模にまで拡大することで合意したばかり。それに伴って、世界屈指の外貨保有国である中国が資金の拠出先として目を付けられたというわけだ。

 中国側にも金を出す動機はある。ヨーロッパは中国にとって最大の輸出市場で、その額はGDPの約6%を占めている。ヨーロッパ経済が傾けば、中国も痛手を負うことになる。

 中国がヨーロッパの救済資金にいくら投じるのか、中国がヨーロッパに見返りとして何を要求するのかは分からない。

 憶測として飛び交っているのは、中国がEFSFの債権に500億〜1000億ドルを投資するというもの。だが債権の買い手に関するEUの情報公開の規則に従えば、投資額はあくまで大陸ごとに公表され、特定の国名や投資家名までは明かされない。

中国が欲しがるEUの「お墨付き」

 中国の当局者はフィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し、投資額を増やす場合は何らかの保証が欲しいと語った。「中国政府が最も懸念しているのは、この決断を国民にどう説明すればいいかということだ」と、中国人民銀行(中央銀行)の金融政策委員、李稻葵(リ・ダオクイ)は言う。「中国が最も避けたいのは、国の財産を無駄にすること、そして単なる金づると見られることだ」

 中国がヨーロッパの債務危機に救済の手を差し伸べれば、その見返りにEUから、中国が「市場経済」になったとのお墨付きを一刻も早くもらえる――。中国のエコノミストと国営メディアはこの夏、そんな考えを盛んに広めようとした。

 このお墨付きは数年もすれば自動的に与えられるものだが、これがあれば中国は貿易交渉でより有利な立場に立つことができる。だがEU当局者たちは、いくら支援金や投資を得られたとしても中国を特別扱いをするつもりは毛頭ないとしてきた。

 一方、中国がEUに対する投資を拡大すれば、ヨーロッパ諸国の首脳は中国に対して人権侵害問題の改善を迫りにくくなる。

 しかし中国の投資の真の目的は、単に資金を米国債以外に振り向け、投資先を分散することとも考えられる。ついでに運がよければ、ヨーロッパでの政治的な立場も向上させられる、といった程度なのかもしれない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、株式市場の偽情報対策を強化 AI利用で拡散し

ワールド

ゴールドマン、今年と来年の原油価格見通し引き下げ 

ビジネス

ダイムラー・トラック、欧州で11億ドル規模のコスト

ワールド

米政権、ベネズエラ犯罪組織200人超送還 地裁判断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自然の中を90分歩くだけで「うつ」が減少...おススメは朝、五感を刺激する「ウォーキング・セラピー」とは?
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴された陸上選手「私の苦痛にも配慮すべき」
  • 4
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    『シンシン/SING SING』ニューズウィーク日本版独占…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 8
    奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」…
  • 9
    鈍器で殺され、バラバラに解体され、一部を食べられ…
  • 10
    劣化ウランの有効活用にも...世界初「ウラン蓄電池」…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 8
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 9
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 10
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中