最新記事

ユーロ危機

独仏会談でも晴れない欧州の霧

来月のG20に先立って債務危機対策の包括的プランを示すことは決まったが

2011年10月11日(火)19時04分
マイケル・ゴールドファーブ

新たな火種 大手銀行デクシアの経営破綻を機に信用不安が広がりつつある Yves Herman-Reuters

 週末とは本来、多忙な日常を離れて一息つくための時間。目の前の問題を大局的にとらえ直す余裕があるおかげで、週明けに効果的な対応策を取れることも多い。

 だが欧州各国の首脳と評論家はこの週末、ヨーロッパ経済の行く末を今まで以上に深く憂いながら過ごしたようだ。

 最大の理由は、10月9日に行われたフランスのニコラ・サルコジ大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相の会談で具体的な成果がなかったことだ。サルコジは会談後の会見で、「われわれはユーロの安定をめぐってフランスとドイツが特別の責任を負っていることを十分自覚している」と記者団に請け負った。

 さらにサルコジは、ユーロ圏の債務危機解決に向けた包括的な対策を用意することも約束した。「持続可能で包括的な対策を取る必要がある。欧州は(11月3〜4日に)カンヌで開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)までに問題を解決しなくてはならず、目の前の危機への対策と長期的なビジョンを今月末までに提示する」

 ビジョンだって? このところ、そんなものはどの国の政府からも聞こえてこないが、欧州は間もなく世界に向けて長期ビジョンを示す必要がある。サミットに先立って、来週末にはパリでG20財務相・中央銀行総裁会議が始まる。債務危機に揺れるギリシャへの対応や欧州各国の銀行の資本増強問題、さらに経営破綻に陥った企業を買い叩こうと待ち構えている投機筋の対策など山積みの問題について、何らかの合意をまとめなければならない。

 フランスとベルギー、ルクセンブルグはこの週末に、経営破綻したフランス・ベルギー系の大手銀行デクシアの事実上の国有化に合意した。デクシアが大量の不良債権をかかえて破綻したことで先週、欧州の銀行株では投機的な動きが活発化した。

欧州大陸の火の粉がイギリスにも降りかかる

 一方、イギリスのデービッド・キャメロン首相は英フィナンシャル・タイムズの取材に応じ、海峡の向こうを騒がすユーロ危機に口を挟んだ。キャメロンは、欧州諸国の指導者に大胆な対策を取るよう要望。さらに、ギリシャ危機の迅速な解決を促したり、ギリシャ救済パッケージの規模を拡大するようメルケルに助言したりした。

 キャメロンは他にも様々な提言をしたが、そこに「他人」の不幸を喜ぶような余裕は微塵もない。イギリスはユーロに加盟していないとはいえ、経済面では欧州大陸と一心同体。ユーロが崩壊すれば、ユーロ圏の国々に勝るとも劣らないほど深刻な打撃を受けるからだ。

 キャメロンが偉ぶった態度を取らないもう1つの理由は、自らの足元が危ういこと。イギリスが緊縮財政に舵を切って以来、過去9カ月間のイギリスのGDP成長率はゼロ。今週水曜には失業率が発表されるが、明るいニュースが届くとは思えない。さらに、リアム・フォックス英防衛相が斡旋収賄スキャンダルの渦中にあり、辞任に追い込まれる可能性もある。

 なんと楽しい1週間の始まりだろう......。イギリスの人気ロックバンド、ドリームは90年代に「今より悪くなることはない」と歌っていたが、事態は確実に前より悪くなっている。

 (GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月小売売上高、伸び0.1%に減速 関税前の駆け

ワールド

ウクライナと「長期平和確立」目指す、根本原因排除=

ビジネス

雇用とインフレに関する戦略の再考が必要=FRB議長

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%増 小売り好調で伸び鈍化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 2
    宇宙から「潮の香り」がしていた...「奇妙な惑星」に生物がいる可能性【最新研究】
  • 3
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習い事、遅かった「からこそ」の優位とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 7
    対中関税引き下げに騙されるな...能無しトランプの場…
  • 8
    トランプに投票したことを後悔する有権者が約半数、…
  • 9
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 10
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中