最新記事

ヨーロッパ経済

IMFの性スキャンダルで欧州に大激震

欧州経済の立ち直りを支えてきたストロスカーン専務理事の性的暴行疑惑によってユーロ圏の債務危機が再び悪化する恐れも

2011年5月17日(火)17時30分
トーマス・ムチャ

甚大な影響 ニューヨークの裁判所に初出廷したストロスカーンは容疑を否認したが(5月16日) Shannon Stapleton-Reuters

 IMF(国際通貨基金)のドミニク・ストロスカーン専務理事が性的暴行容疑で逮捕・訴追されたのは、これ以上ないほど最悪のタイミングだった(一泊3000ドルのホテルのスイートルームで女性従業員に性的暴行を加えるのに、もっといいタイミングがあった、という意味ではない)。

 オンライン新聞「グローバルポスト」によれば、ストロスカーンには次のような行為を働いた容疑がかけられている。


 警察によれば、ホテル従業員は32歳のアフリカ出身の移民女性で、10代の娘とともにブロンクス地区に住んでいる。彼女の証言によれば、5月14日に勤務するホテルの一室に立ち入ったところ、裸の男性がバスルームからベッドに走るのが見えたという。彼女は謝罪して立ち去ろうとしたが、男性は彼女につかみかかり、ドアを閉めて鍵をかけ、バスルームに引きづりこんでオーラルセックスを要求し、彼女の下着を脱がせようとしたという。


南部の債務国と北部の健全国をつなぐ仲介役

 ストロスカーンは容疑を否認し、無罪を主張している。だが本当に問題なのは、暴行疑惑の真相や裁判における非難合戦の中身ではない。

 今後のグローバル経済の見通しという点で、今回のスキャンダルが露呈したタイミングは、まさに最悪。ギリシャもポルトガルもスペインも、今まさにIMFの支援を必要としている。これまでにもイタリアやアイルランド、ベルギー、そしてヨーロッパのほぼすべての国々が、債務危機の最中にさまざまな形でIMFのサポートを受けてきた。

 少なくとも短期的には、これほど重要な国際機関のトップにセックススキャンダルが降りかかったことで得をするに人は誰もいない。

 突き詰めて言えば、政治とは人々が望んでいないことをやらせる手腕を指す。その意味で、ストロスカーンの仕事ぶりは見事だった。

 ストロスカーンの実務的なリーダーシップの元、IMFは財政赤字に苦しむヨーロッパ南部の国々と、他国の救済に消極的な有権者が多いドイツやオランダのような北部の財政健全国の間を取りもつ仲介役を担ってきた。

 ストロスカーン自身も、欧州中央銀行(ECB)のジャンクロード・トリシェ総裁やフランスのサルコジ大統領といった政財界の指導者や経済学の権威らと緊密に連携して仲介役の任務を果たしてきた。ギリシャのパパンドレウ首相は、IMFとEUに支援を要請する数カ月前からストロスカーンにアドバイスを求めていた。

 IMFの元主任エコノミスト、サイモン・ジョンソンはニューヨーク・タイムズ紙に対して、過去2年間にストロスカーンが果たした役割をこう表現した。「ヨーロッパの人々は経済問題に目覚めるのが遅かった。だがストロスカーンは、人々を脅す代わりに、うまく褒めながら行動を起こさせた。そうすることで、彼は一連の危機をIMFへの評価を回復させるチャンスととらえ、IMFをかつてないほど中心的な存在に押し上げた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中