最新記事

貿易

iPhoneが「アメリカ製」だったら

iPhoneの作られ方を検証したら、人件費の安い中国に負けたのではない意外なカラクリが浮き彫りに

2011年3月10日(木)17時48分
クライド・V・プレストウィッツ(米経済戦略研究所所長)

なぜ負ける? iPhoneの部品の大半は人件費が高く技術集約型の日本や韓国で作られているのに Brendan McDermid-Reuters

 ジョン・マケイン上院議員は先日、ABCテレビのインタビューに応じ、iPhoneとiPadは「メイド・イン・アメリカ」の素晴らしさを象徴する製品だと語った。事実誤認もいいところだ。ハイテク機器産業の一大拠点であるアリゾナ州選出のマケインが、こんな勘違いをするなんて容認できない。上院議員たちの知識レベルに国民が不安を感じるのも無理はない。

 では、アップルが誇るiPhoneやiPadは、実際にはどの国で作られているのだろう? 大半の人が中国と答えるだろうが、実はそれも間違いだ。ここには、興味深い真実が隠れている。

 アメリカの製造業の崩壊を憂う立場の人々は以前から、国内の製造業と雇用が中国に流出している典型例として、iPhoneを名指しで批判してきた。彼らに言わせれば、iPhoneの海外生産委託によってアメリカの貿易赤字は年間20億ドル上積みされ、20〜40万人の国内雇用が失われているという。

巨額の対中貿易赤字は数字のトリック

 一方、自由貿易の信奉者たちはまったく逆のことを言う。iPhoneの小売価格、約500ドルのうち、中国での製造・組み立てにかかるコストは180ドル足らず。それ以外の320ドルはデザイン、ソフトウエア開発、マーケティング、輸送、販売がらみのコストで、すべてアメリカ国内で行われている。つまり、中国の2倍近い価値がアメリカで生み出されている計算になる、という。

 さらに、中国の製造コストが低いおかげで、アメリカの消費者はiPhoneを安く購入できる。その結果、消費者はより多くの電話を購入し、より多くの国内雇用が生まれる──。

 そうだとしても、アメリカには依然としてアメリカには巨額の対中赤字が残り雇用も犠牲になるが、その赤字は、米企業が強い競争力をもつ航空機などの輸出を倍増させることで解消できると自由貿易主義者は言う。

 ところが、アジア開発銀行研究所(ADBI)が最近行った調査からは、まったく別のシナリオが浮かび上がる。iPhoneのサプライチェーン(原材料の調達網)を詳細に調べたところ、中国が関与しているのはほんの一部に過ぎないことがわかったのだ。

 中国はアジア各国から集まってきたiPhoneの部品を最終的な製品に組み立て、アメリカに送るだけ。貿易統計上、アメリカの税関は中国から届いたiPhoneの価値すべてを中国からの輸入とみなす。iPhoneの貿易でアメリカが中国に20億ドルの赤字になるように見えるのはそのためだ。

 だがADBIによれば、中国での組み立てによる付加価値は完成品の3%、つまり約6ドル相当にすぎない。しかも中国はいくつかの高価な部品をアメリカから輸入しており、iPhone貿易で赤字なのはむしろ中国のほうだという。

 つまり、iPhone生産の大部分を担うのは、中国をはじめとする労働コストの低い国ではない。充電器やカメラレンズ、水晶振動子は台湾製で、スクリーンは日本製、映像処理半導体は韓国製。それ以外の半導体の多くも台湾の台湾積体電路製造社で作られている。

 中国の組み立てラインには、最終的に9カ国以上の国で生産された部品が集まる。そのため、対中国だけでみれば実際にアメリカが黒字になる可能性はかなり高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中