最新記事

アプリ

携帯ゲーム「アングリーバード」の野望

生誕1周年を祝うため、世界各地にコスプレファンが集結。カルト的人気の「鳥」が業界地図を塗り替える

2010年12月15日(水)18時24分
アニー・ラウリー

売り上げNo1 アングリーバードを開発したロビオ社のミカエル・ヘッドCEO Georgina Prodhan-Reuters

 12月11日、ワシントンの地下鉄の駅で、空手の組手のようなものを披露する少年2人を見かけた。だが駅の雑踏の中で誰も彼らに注目しなかったし、その動きは例のイベントとも関係ないようだった。

 例のイベントとは、この日、ロンドンのトラファルガースクエアなど世界各地で行われた、スマートフォン向けゲーム「アングリーバード」の生誕1周年を祝うパフォーマンスのこと。アホみたいに単純な仕組みなのに世界中で大ヒットしているゲームの誕生パーティーだ。

 今回の世界的なイベントをウェブを通じて呼びかけたのは、このゲームを開発したフィンランドのロビオ社。誕生日を一番祝ってくれた都市には、アングリーバードの特別ステージを新たに作ると約束した。だがアングリーバードのファンたちには、そんな褒美も必要なかっただろう。なにしろ発売以来、このゲームの中毒者は世界中で続出。ロビオは携帯電話よりもっと儲かる市場への進出も目論んでいる。

 ゲームの内容はこんな感じだ。丸い緑色の豚が、極太眉で羽根なしの鳥から卵を盗む。怒った鳥は豚に仕返しをする。プレイヤーは携帯電話のタッチスクリーンを操作して、パチンコ玉のように鳥を飛ばして豚の家などにぶつける。家が壊れたら成功で、ポイントが獲得てきる。

 本当にばかみたいに単純だから始めるのは簡単だが、やめるのは難しい。ロビオはiPhone版だけで1日に累計約110万時間分もプレーされているという。ヘルシンキを拠点とするロビオは、アングリーバードを昨年12月に発表した。初めは地元で人気が高まり、次にヨーロッパ、そして世界へと急速に広がっていった。

 イギリスのiPhoneアプリストアでは2月に売上1位に輝き、その数カ月後にはアメリカでも1位に。アップルは先週、2010年に最も売れたアプリだと発表した。iPhone版のダウンロード数は3000万件に上る(1回のダウンロードで約1ドル)。

 グーグルの携帯電話用OSアンドロイドなら、無料でダウンロードできる。アンドロイド版には現在500万人が登録しており、毎月の広告収入は100万ドルにもなる。すべてのバージョンを合わせると、総ダウンロード数は5000万件だ。

プレステやWiiでも遊べるように

 携帯業界を制覇したロビオは、ほかのハイテク業界にも目を向け始めた。ある幹部に言わせれば、アングリーバードは「携帯電話用に開発され、その後あらゆる分野に進出している初めてのブランド」だ。

 ロビオは最初、多くの携帯電話用ゲーム会社と同じく、エレクトロニック・アーツのような大手の下請けとして製品を開発していた。しかし激しい競争が携帯電話ゲームの価格を下落につながり、また小さなタッチスクリーン上でできることは限られている。そんななかアングリーバードの大成功と、その無愛想な鳥のキャラクターにカルト的な人気が集まったことで、ロビオはこのキャラを利用したマルチプラットフォームのブランドを立ち上げることを決意した。

 この数カ月で社員数が30人を超えたロビオは今、アングリーバードの新たな展開を模索している。フェースブックのようなネットワーキングサイトや、プレイステーションにXbox、Wiiなどのプラットフォームにも適応できるようにするのだ。

 加えて「収益化の拡大」も狙っている。ロビオはまず、しかめっ面をした鳥のぬいぐるみや洋服といったキャラクターグッズを売り出した。野望はさらに膨らみ、現在はアングリーバードのテレビドラマ化や映画化の可能性を探っている。テレビゲームではこれまでもあったが、携帯電話ゲームでは初の試みだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中