最新記事

ネット

強気の中国、媚び出したグーグル

中国撤退後も巧みに中国ユーザーへのサービスを続けてきたグーグルだが、中国政府の新たな圧力を受けて妥協案を打ち出した

2010年6月30日(水)13時07分
クリス・トンプソン

グーグルが中国政府によるウエブサイト検閲にはもう力を貸さないと宣言したのは、今年1月のこと。同社の中国語の検索サービス「Google.cn」での検索結果に対する検閲を中止し、場合によっては中国撤退も辞さない方針を表明した。世界からは、全体主義国家の中国によくぞ立ち向かったと称賛する声が巻き起こった。

 グーグルのサーバーを中国がハッキングしたとされる事件がきっかけになったこと、同社がもともと中国では大した収益を上げていなかったことなどを考えると、「正義の撤退宣言」とは言えない側面もある。それでも共同創設者のラリー・ページとセルゲイ・ブリンは、ある意志をはっきりと示した――世界には(中国の)圧政に屈しない者もいるのだ、と。

 しかし今、その誓いは色あせつつあるようだ。グーグルが3月に中国撤退を決めた際、同社は実に巧妙な手段をとった。中国のユーザーがGoogle.cnにアクセスすると、同社が香港で運営するGoogle.co.hkへ自動転送される。ここでは検閲は行われないため、89年の天安門事件などについても心ゆくまで検索できる。このやり方なら、同社を頼りにする中国のユーザーから情報を奪うことなく、検閲に加担しないという約束も守れる。

事業免許の更新問題がネックに

 ここにきて、グーグルはその戦略から後退を余儀なくされているようだ。同社の法務責任者上級副社長デービッド・ドラモンドが6月28日にアップした同社のブログによると、今のやり方を続けるなら、6月30日に期限を迎える中国での事業免許を更新させないと、中国当局に脅しをかけられたという。

 そこでドラモンドは妥協案として、自動転送の代わりにGoogle.cnに香港のサイトのリンクをはる形にすると発表した。「私たちは中国の人々を含め、全てのユーザーが情報を手に入れられるよう全力を傾ける」と、ドラモンドは記している。「そのためにGoogle.cn存続に力を尽くし、中国での研究開発も続けてきた。今回の新たな手法は、自己検閲を行わないというグーグルの信条に乗っ取り、同時に中国の法律にも沿ったものだと信じている。わが社の事業免許が更新され、中国本土のユーザーへのサービスを続けられるよう願っている」

 誰でも宝くじは当てたいものだが、そんな幸運はめったに巡ってこない。自動転送の代わりにリンクをクリックするようにしたところで、中国当局が納得する確率は途方もなく小さい。

 ここで浮かぶ疑問は、中国当局がグーグルの新しい手法を受け入れないと言ってきたら、グーグルはどうするかだ。信念に従い、中国から完全撤退するのか。あるいは、静かに香港サイトへのリンクを断ち切るのか。グーグルが出す答えに期待したい。

The Big Money特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中