最新記事

通貨

「人民元切り上げ」中国の狙いとは

突然の通貨政策変更はアメリカの圧力に屈したからか、それとも「為替操作」が国内経済に及ぼす弊害を認識したからなのか

2010年4月9日(金)17時00分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

譲歩かポーズか 今回の政策転換については、小幅な切り上げでアメリカの圧力をかわすのが目的だとする見方も Nicky Loh-Reuters

 ここ数日、中国が通貨政策を見直して対ドルでの人民元の切り上げを発表するのではないかとの憶測が飛んでいる。この件について最も詳しく書いている米ニューヨーク・タイムズ紙、キース・ブラッドシャー記者の記事を見てみよう。


 情報筋は4月8日、中国政府は近く人民元の変動幅拡大を容認する政策を発表する見通しだと語った。変動幅の拡大は小幅ではあるが、対ドルでの速やかな切り上げが行われるという。今回の通貨政策の変更は、中国の指導部が1晩で対ドルでの人民元の価値を2%切り上げた05年の決定をモデルとしたものだ。

 だが中国は変動幅拡大の発表と同時に、人民元の価値は上昇するだけでなく、いつでも下落する可能性があることを強調すると見られる。人民元の高騰を見込んで、国内に投機資金が流入してくるのを牽制するのが狙いだと、先述の情報筋は言う。

 中国政府内で通貨政策の見直しが合意されつつあるのは、アメリカのティモシー・ガイトナー財務長官が8日に北京で行った王岐山(ワン・チーシャン)副首相との緊急会談の結果だ。


 つい先月まで人民元切り上げをめぐって対立していた米中関係だ。中国はなぜ急に政策変更に踏み切ったのか。ブラッドシャーはいくつかの答えを提示している。


 中国の輸出産業に近い政府の商務部は先月いっぱい、人民元の価値上昇に強く反対していた。だが政府内で別の利害をもつ勢力との議論に敗れたと見られる。

 この勢力が主張したのは以下の3つ。

1)中国はドルに依存しすぎている
2)より変動幅の広い通貨が経済を管理しやすくする
3)08年7月以来ずっと人民元の切り上げに断固反対し続けてきたせいで、中国は国際社会で孤立を深めている

 別の情報筋によれば、中国当局が通貨政策の変更を決めたのは、主に国内の経済環境を評価したうえでの判断だという。増大するアメリカからの圧力や、アメリカほど大っぴらではないにしろヨーロッパや新興諸国からもかかっている圧力に屈した結果ではない。


 では今、中国が政策を変えた裏には何があるのか? まず今回の変更は、形だけのシンボリックな動きだとも考えられる。今回の決定で、中国政府による人民元の「為替操作」を非難してきたチャールズ・シューマー米上院議員が求めるほどの切り上げが行われることは、まずありえない。

 それでも、完全に形だけのものというわけでもなさそうだ。中国の政策転換が本物なら、その変化の要因としては以下の3つが考えられる。

1)人民元の為替レートを固定し、実際より過小評価することによって国家の利益が縮小していると、政府の指導部が認識した

2)多くの国々からの圧力と、次の20ヵ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)での孤立を恐れた

3)アメリカから一方的に「為替操作国家」呼ばわりされたり、貿易戦争を仕掛けられることを恐れた

 この3つは相互に関わっており、実際に何が中国の背中を押したのかはわからない。だが私は1と2の要因は3よりはるかに重要だと考えている。とはいえ、一部の米議員の馬鹿げた行動が中国を動かしたとの可能性も排除できない。

 今のところ、経済学者のポール・クルーグマンやフレッド・バーグステンといった人民元の切り上げを求める強硬論者は沈黙を守っている。今回の中国政府の変化について、彼らの意見をぜひとも聞いてみたいものだ。

[米国東部時間2010年04月08日(木)12時13分更新]


Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 09/04/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院、トランプ氏の対イラン戦争権限制限案を否決 

ビジネス

米経済活動、7地区で緩やかな拡大 見通しは全体に楽

ワールド

トランプ氏、FRB次期議長にウォーシュ氏正式指名 

ワールド

米国防総省、重要鉱物の国内供給強化へ提案要請 イラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中