最新記事

自動車

トヨタが見捨てたNUMMIに救世主

トヨタが閉鎖を決めた伝説的工場NUMMIの施設と労働者をぜひとも引き継ぎたいというベンチャー企業の正体は?

2010年3月17日(水)16時40分
マシュー・デボード

失業せずにすむかも NUMMI閉鎖に抗議する労働者(2月12日、カリフォルニア州フリーモント) Robert Galbraith-Reuters

 米ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ボブ・ハーバートが3月15日付けのコラムでトヨタをこき下ろしている。大量リコールのせいでもその結果浮上したトヨタのさまざまな問題のせいでもない。トヨタの成功に大きく貢献してきたカリフォルニア州に対して、恩知らずな行動を取っていると思ったからだ。


 トヨタは最も恥ずべき形でカリフォルニア州に対する恩を仇で返そうとしている。

 トヨタはカローラやピックアップトラックのタコマを生産してきた同州フリーモントの組立工場の閉鎖を計画している。景気後退で雇用状況が最も悪化しているこの時に、同工場の閉鎖によって技術力の高い献身的な熟練労働者4700人が職を失うことになるだろう。さらに州内のいたるところで2万人近い関連産業の雇用を脅かす可能性もある。


 このフリーモントの工場は、日米自動車産業の競争と協調のシンボルとなり、ある意味業界の伝説ともいえる「ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI=ヌーミー)」として知られている。

 同工場は、80年代にトヨタとGM(ゼネラル・モーターズ)が折半出資で設立。GMはトヨタから効率的な生産方式を学び、対するトヨタはGMから......何を学んだかはさておき、カリフォルニアで自動車生産にいそしんだ。

 ハーバートがNUMMIの5000人近い労働者の肩を持つのはもっともだが、彼は重大なニュースを見逃している。電気動車開発会社アウリカ・モーターズがNUMMIを引き継ぎ、電気自動車の生産工場として再生させ、労働者を再教育して雇用し続ける意向を示していることだ。実現のためには政府による資金援助と、工場施設の大改造に2年ほどの時間が必要になる。

マルチモーターの電気自動車を計画

 ハーバートはこのニュースを知らなかったのか、あるいは知っていてもあまりに非現実的と考えたのか。いずれにしろニューヨーク・タイムズには、アウリカの提案を記事にする気はなさそうだ。確かにアウリカは電気自動車のベンチャーのなかでもより知られていない部類だが、エコ・ブロガーたちの世界は今、この無名企業の話題で持ちきりだ。

 もちろん、カリフォルニアでトヨタが生産を続けられるに越したことはない。だがそれが不可能だとしたら、政府は少なくともアウリカの提案を検討してもいいはずだ。

 アウリカの計画の中には、各タイヤにモーターを備え、交換可能なバッテリーで動く自動車の生産も含まれる。ベンチャー企業のベター・プレース社によって有名になった戦略だ。充電は家庭用コンセントも使えるプラグイン方式だ。

 交換可能バッテリーはともかく、マルチモーター自動車は効率を高め、燃費を向上させるだろう。加えてアウリカの電気自動車は多用途にデザインされ、外観も優れている。何より、アウリカの戦略は1車種に限定されない。小型車からセダン、SUV、ピックアップトラックまで製造する計画だ。多様な車種で競争することで、成功のチャンスも広がるだろう。

 ただしそれには、NUMMIのような施設とNUMMIで働いてきたような熟練労働者の力が不可欠だ。

*The Big Money特約
http://www.thebigmoney.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中