最新記事

アメリカ経済

「男の不況」マンセッションって何?

男性は女性より不景気に失業しやすいことを示す新語が流行している。「男性不況」は社会や家庭にどんな影響を与えるのか

2009年7月23日(木)17時16分
ナンシー・クック

増える主夫 男性の献身的な家事参加が期待できるのも景気の悪い今のうちだけ? Jessica Rinaldi-Reuters

 リセッション(recession 不況)ならぬ「マンセッション(mancession)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ある経済学者がこの春に作った造語で、女性に比べ男性の失業率が高く、かつその差が開きつつある状況を表している。

 人種や年代を問わず、あらゆる男性は経済的に追い詰められる可能性があるという指摘は斬新で、人々を驚かせた。

 たしかにアメリカの6月の失業率をみると、男性が女性を2.5%上回っている。これは第二次世界大戦以降では最大の格差であり、専門家は製造業と建設業(従業員の約70~85%を男性が占める)における大量解雇が原因だと指摘する。

 サウスカロライナ州に住むマーティ・アディソン(39)もマンセッションの犠牲者だ。元海兵隊員のアディソンは通信機器メーカーで組立工として働いていたが、1カ月前に職を失った。彼は今、救急救命士を養成する学校に通っている。「働き口がなくなることはなさそうだから」というのがその理由だ。

 アディソンのような男性たちが痛手を負う一方で、女性が我が世の春を満喫しているかというとそうでもない。確かに女性は男性ほど雇用の減少に苦しんではいない。だがシンクタンクのアメリカ進歩センターによれば、女性の給料は男性の78%程度に過ぎない。また女性の勤め先は小売業や教育、医療といった低賃金の業界が多い。

 女性の仕事には諸手当や退職金、年金がついていない場合が多い。「女性の進出が進んでいる職場は弱い職場でもある。女性の給与は低く抑えられている」と語るのは、女性政策研究所のハイディ・ハートマン所長だ。

妻の稼ぎでは食べていけないが

 マンセッションについて研究している労働経済の専門家(多くが女性だ)は、その「効果」に大きな期待を寄せる。企業が女性の給与を引き上げ、ハイテクや金融といった高報酬の分野の門戸がもっと多くの女性に開かれるのではないかというわけだ。

 男女間の賃金格差はこの10年、ほとんど縮まっていない。世帯収入の半分以上を稼いでいる女性は全体の35%程度に留まっている。

 これまで、男女の収入格差を縮めるという点で最も実績を上げてきたのは大学卒で子供のいない女性たちだった。だがそれほど学歴がなかったり、幼い子供をかかえている女性たちの給料は今も男性を大きく下回る。

「有給雇用について考え直すいい機会かもしれない。妻の稼ぎが家族を支えているこの時代だからなおさらだ」と、ラトガーズ大学の女性仕事センターでセンター長を務めるアイリーン・アッペルバウムは言う。「女性向けといえば、看護や介護の仕事ばかりだ。家族を支えていけるだけの金を稼げる職ではない」

 グレッグ・ジミー(44)の家族がいい例だ。医療機器メーカーの副社長だったジミーは08年末に失業。妻は循環器専門の看護師として病院に勤務している。妻が安定した職に就いているだけラッキーだとジミーは言うが、妻の給料はかつての彼の稼ぎの半分程度だ。そこで一家は、ジミーが就職するまで自宅の改修や外食といった不要不急の出費をすべて控えることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中