最新記事

アメリカ経済

米失業率9.5%に、「希望」はどこへ

6月のアメリカの失業率は2桁に近づいた。26年ぶりの悪化に出口はあるのか

2009年7月3日(金)17時47分
ナンシー・クック

増えるばかり ミシガン州デトロイトで開かれた仕事フェアに列を成す人々(3月12日)。同州の失業率は14%を超える Rebecca Cook-Reuters

 ケリー・クロストスキ(47)は、今後の人生で期待できるものを手に入れたはずだった。それは最先端技術と経営に関するコンサルタントという、輝かしいキャリア。この稼ぎがあれば、2人の娘の大学の学費を払い、オレゴン州ポートランド近郊の町で快適な引退生活を過ごすことが可能なはずだ。
 
 それなのに、クロストスキは今年2月から無職だ。唯一手に出来そうな仕事は、給与が4割減になる。それでも、彼女は喜んでこの職に応募しただろう。その会社が新規の採用を中止していなかったとしたら。

「この1年で、同僚の多くが職を失った」と、クロストスキは自宅で話す。本来なら職場で仕事をしている時間だ。「この状態が続くかもしれないと考えると、気が狂いそうになる」

 現在のアメリカの失業率は、仕事を探している人間にとっては絶望的だ。米労働省統計局が7月2日に発表した統計によると、全米の6月の失業率は9.5%に達し、5月の9.4%から悪化した。

「現時点でこんなに高い数字を突きつけられれば不安になるのは明らかだ」と、コロンビア大学のシャリン・オハロラン教授(政治経済学)は言う。「願っていたような雇用情勢の落ち着きは見られない」

アメリカ西部では悪夢の事態が進行中

 失業率がここまで悪化したのは、実に26年ぶりのことだ。最後に失業率が10%を超えたのは82~83年の不況のとき。当時のアメリカは、79年の石油危機と21.5%にまで上昇した高金利の後遺症に苦しみ、貯蓄貸付組合(S&L)の崩壊に直面していた。

 失業率は再び大台に乗るのだろうか。何人かの楽観的なエコノミストは、金融回復の「グリーンシュート(新芽)」が出ていると指摘したがるが、多くの州の大地はむしろ枯れ果てているように見える。特にカリフォルニア州やオレゴン州、ネバダ州といった失業率が11%を超える西部の州では、新芽はまったく見えない。

 こうした州の経済はお先真っ暗だ。カリフォルニア州の巨額の財政赤字が意味するのは、同州は支払いの代わりに借用証書を配布するハメになるかもしれないということ。ネバダ州では昨年、30万件以上の住宅が差し押さえられた。オレゴン州政府労働当局者によると、カリフォルニアなどからの無職の移住者が増えているという。

 自動車産業の中心地ミシガン州のように、1つの産業に依存する州の状況も厳しい。ミシガン州の失業率は14.1%で、約17億ドルの財政赤字を抱える。上記のすべての州で、教育や治安、公園に当てられる予算はこれまで以上にカットされそうな事態だ。

 それでも、現在の「大不況」は1930年前後の「大恐慌」ほどではない。当時は景気低迷が43カ月続き、平均失業率は25%近くに達した。今回の不況はこれほど長くは続かないだろうが、皮膚感覚では深刻だ。

 失業率は社会的、人種的グループによって差がある。オバマは社会福祉サービスやセーフティネットを強化するとしているが、すべてを救うのは至難の業だ。

「今は高収入の人たちの稼ぎも減っている。人々は引退を先送りし、次世代に開放される職は限られてしまう」とオハロランは指摘する。たとえ政府が失業率の上昇を鈍らせることができたとしても、10%の壁を越えてえしまえば、人々の士気は下がるだろうとオハロランは見る。

消費が鈍れば、さらなる人員削減の悪循環

 人々はこうした状況に、どう対処しているのだろうか。過去の不況と同様、財布の紐を締めているのだ。消費の鈍化が続けば、小売業の在庫は増え続け、製造業はさらなる減産を決断し、すべての業種で追加の人員削減が行われるだろう。

 そして、高い失業率が意味することはもう1つ。労働者が低い賃金に甘んじ、地方と連邦政府の税基盤を弱体化させるということだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

植田日銀総裁「賃金に上昇圧力続く」、ジャクソンホー

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中