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米経済

楽観か悲観か マーケットの深層を読む

2009年4月9日(木)15時14分
ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイCEO)

次にやって来るのは米国債バブル崩壊か

 昨年、私は投資判断で大きなまちがいを犯した。原油の価格がピークに近づいたときに石油大手コノコフィリップスの株を大量に買ったのだ。昨年後半に起こったようなエネルギー価格の劇的な急落を、私はいかなる意味でも想定していなかった。

 原油価格は現在40〜50ドルだが、将来はもっと上がる確率が高いと今でも信じている。だがこれまでのところ、私の予想は完全にはずれている。仮にこれから価格が上がるとしても、私が高い株を買ったことでバークシャーは数十億ドルの損をこうむった。

 昨年でよかったのは、チューインガムメーカーのウィリアム・リグレー・ジュニアとゴールドマン・サックス、ゼネラル・エレクトリック(GE)が発行した社債を総額146億ドルで購入したことだ。これらの投資にはとても満足している。配当利回りは高く、それだけでも十分すぎるほどの見返りがある。

 しかしこれらの企業に投資を行うときに、バークシャーはおまけとして相当量の株式も購入した。その資金を調達するために、私は保有し続けたかった持ち株の一部を処分しなければならなかった。売ったのは主に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、コノコフィリップスなどだ。

 だが私は、株主の皆さんや格付け機関、そして自分自身に誓っている。バークシャーの経営にあたっては、常に潤沢な手持ち資金を欠かさないと。明日の支払いをするために、知らない人の善意にすがるようなことは決してしたくない。もし選択を迫られれば、たとえ追加の利益が得られるかもしれないチャンスでも、不安のために一晩でも眠れなくなるような投資は行わない。

 市場の大勢は、リスクの過小評価から過大評価にシフトした。しかも小さな変化ではない。非常に大きく振り子が振れた。数年前なら、格付けの高い地方債や社債から今ほどの高配当が得られることなど考えられなかった。それだけリスクが嫌われている証拠だ。一方でリスクのない米国債は、配当益もほとんど得られない高値で取引されている。

 いつの日か、この10年間の金融史が書かれるときには、90年代末のIT(情報技術)バブルと00年代前半の住宅バブルに並んで、08年後半の米国債バブルが尋常ならざる歴史の一幕として言及されることになるかもしれない。

 現金や利回りの低い長期国債にしがみつくような投資方針は、長く続ければほぼまちがいなく失敗するだろう。投資家はもちろん、金融市場の混乱の拡大に伴ってリスク回避志向を強め、今ではその判断に自信満々であるようにもみえる。メディアで誰かが「現金こそ王様だ」などと発言するのを聞くと、彼らは自分の判断の正しさが証明されたように感じるだろう。実際には、現金はほとんど何の利益も生み出さず、時とともにその購買力は確実に減っていくにもかかわらずだ。

 投資の目標は、人々の賛同を得ることではない。実際、賛同はしばしば非生産的に作用する。脳の働きを鈍らせ、新しい事実や以前に出した結論の再検討結果などに対する感度も鈍らせる。

 喝采を浴びるような投資行動には注意したほうがいい。偉大な投資判断は通常、あくびを誘うほどつまらないものだからだ。  

[09年3月18日号掲載]

[2009年3月18日号掲載]

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