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米経済

楽観か悲観か マーケットの深層を読む

2009年4月9日(木)15時14分
ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイCEO)

住宅の値上がりに頼った無責任の連鎖

 バークシャー傘下の事業の一つに、組み立て式住宅最大手のクレイトン・ホームズがある。同社の最近の経験は、住宅と住宅ローンに関する政策論争に役立つだろう。

  90年代、組み立て式住宅業界では悪質な販売手法が横行していた。頭金を納めてもらう必要性はしばしば無視された。詐欺まがいの営業もあった。借り手のほうも、返済のあてがない過大なローンを気軽に組んだ。頭金は払っていないし、家さえ売れば失うものは何もないと思ったからだ。

 こうして貸し付けられた住宅ローンは通常、パッケージ化され証券化され、ウォール街の金融機関から何も知らない投資家に販売された。この愚行の連鎖はいずれ破綻する運命で、事実そうなった。

 クレイトンは、はるかに良識ある融資を行った。クレイトンが実行した融資を証券化した商品は、元利金の一謐も失ったことはない。だがこれは例外的で、業界全体ではけたはずれの損失が発生した。その後遺症は今も続いている。

  97〜00年に起きたこの大失態を、われわれは炭鉱のカナリアと同じ警報と受け止めるべきだった。だが投資家や政府、格付け機関は何も学ばず、04年から 07年にかけて、はるかに規模が大きくなった住宅市場で同じ過ちが繰り返された。返済能力のない借り手がやすやすと住宅ローンを組んだ。貸し手も借り手も「住宅価格の上昇」をあてにしていた。「明日のことは明日考えましょう」と言った『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラのような無責任さが、アメリカ経済の今の惨状を招いた。

 しかしクレイトンからローンを借りた19万8888人は、住宅バブル崩壊の最中にも通常どおり返済を続けられた。なぜか。彼らは中堅所得層で、信用履歴も決して良好とは言えない人たちばかりだ。だがクレイトンが融資した人々は、元利金を合わせた住宅ローンの返済総額を自分の実際の稼ぎと比べたうえで、ローンを組むかどうかを決めた。将来住宅価格が上がろうと下がろうと、借りたものは返すという意志があった。

 借り手が何をしなかったかという点も同様に重要だ。彼らは、住宅価格の値上がり分を担保にして借りた金でローンを返そうとはしなかった。最初だけ金利が低く、後で急激に上がるティーザー金利の契約もしかなった。いざというときには家さえ売れば儲かるとも考えなかった。

 もちろん、クレイトンの借り手でトラブルに陥る人も数多くいる。彼らは一般にわずかな貯蓄しかもたず、経済環境が急激に悪化すると対応できない。住宅ローンの延滞や住宅差し押さえの大きな原因は失業だ。これから失業率が上昇すれば、さらに多くの借り手が返済に窮し、クレイトンもより大きな損失を出すことになるだろう。だがクレイトンの業績は、いかなる意味でも住宅価格の動向に左右されることはない。

 持ち家というのは素晴らしいものだ。だが、家を買う主な動機は自分の家に住む喜びと利便性であるべきで、売却益や住宅担保ローンのためであってはならない。

 人々に家を買わせるのは好ましい目標だが、それが国の主たる政策目標であるべきではない。まじめに頭金をためて家を買った人々が、その家を失わなくてすむようにするほうが重要だ。

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