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2013.02.22

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知ってるようで知らない無人機攻撃の怖さ

オバマ政権の「テロリスト標的殺害」作戦。リーク文書で明らかになった驚くべき非道

2013年2月22日(金)17時44分
ジョッシュ・ジーザ

無差別殺人機 攻撃能力が高い米空軍の無人機MQ9リーパー Reuters

 オバマ米政権の無人機使用は今や公然の秘密。しかしその実態はあまり知られていない。

 パキスタンやイエメンで実施された作戦は広く報道され、米政府もそれとなく事実として認めることが多い。とはいえ公式にはあくまでも機密事項であり、作戦遂行に何らかの指針があるとしてもそれは非公開だ。

 オバマ政権顧問として無人機による「標的殺害」計画を策定したジョン・ブレナンがCIA(米中央情報局)の新長官に指名されると、指名承認公聴会でも当然、注目を集めた。

 折しも、先日NBCニュースが入手したオバマ政権の内部文書には、無人機による殺害を正当化する法的根拠などが示されていた。以下に、既知の事実と問題点をまとめる。

■リークされた文書の中身

 16ページに及ぶこの文書を理解するには、11年9月の作戦について知っておかないといけない。アルカイダ系組織の指導者で米国籍を持つアンワル・アル・アウラキが、イエメンでの無人機攻撃で殺害された。彼は正式に訴追されていなかったため、この作戦は米憲法修正5条(法に基づく適正な手続きなしに生命を奪われない)違反ではないかと指摘されている。

 文書では、政府は外国にいる人物でも「切迫した脅威」を及ぼせば殺害できるとする。ただし「切迫した」の定義が広過ぎて意味がない。近日中にアメリカの国民あるいは権益が攻撃されることを示す明確な証拠がなくても、「切迫した脅威」に入り得るというのだから。

■作戦承認の手続き

「標的リスト」に新たなターゲットを追加する場合は、オバマ大統領自身が承認しているといわれる。またその傍らには常にブレナンがいるという。だがこの2人以外では誰が新たな標的を「指名」できるのか。選定に基準はあるのか。その場その場の判断なのか。

 大統領選中に共和党のロムニー候補の優勢が伝えられた際、オバマ政権は引き継ぎに備えて、それまでなかったある種の「マニュアル」を慌てて作り始めたとも報じられた。

■誰を殺害しているのか

 これも内部文書では明らかにされなかった疑問だ。02年のブッシュ政権時に始まった無人機作戦の初期の標的は、対米攻撃を計画中とされるアルカイダ幹部だった。しかし上層部を一掃した後も作戦は続行された。

 最近はアフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリアで反政府武装勢力の下っ端戦闘員が標的にされ、相手の身元がよく分かっていないこともある。

 集団の行動パターンが少しでも武装勢力のように見えたら標的にする「識別特性爆撃」も論議を呼んでいる。米国務省では、こんなジョークがはやっているらしい。男が3人並んで軍事訓練のような挙手跳躍運動をすれば、すぐにCIAに殺される。

■民間人を殺しているのか

 公式見解は、ブレナンいわく民間人の犠牲は「非常にまれ」だ。だがCIAは無人機作戦の犠牲者が成人男性だった場合、「戦闘員」として数えている。

 昨年8月にイエメン人のアルカイダ要員3人が無人機で殺害されたとき、ちょうど彼らのテロ活動をやめさせようと説得に来ていた穏健派の聖職者とその親族の男性が巻き添えになった。この2人も作戦遂行直後は、民間人ではなく戦闘員として処理されたはずだ。

■作戦の全体像とその規模

 正確には分からない。調査報道協会の推定では、作戦回数はパキスタンで04年から300回、イエメンで02年から40~50回、ソマリアで07年から3~9回。死者数は多めに見積もって3000~4500人だという。

[2013年2月19日号掲載]

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