最新記事

ギリシャ発、福祉国家「死のスパイラル」

ソブリンリスク危機

アメリカや日本にも忍び寄る
ギリシャ型「政府債務信用不安」の実相

2010.07.05

ニューストピックス

ギリシャ発、福祉国家「死のスパイラル」

ギリシャ危機の元凶は手厚い社会保障の過大な負担が引き起こした負のスパイラル。同じ運命が、多くの先進国を待ち受けている

2010年7月5日(月)12時03分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 ギリシャでは今、福祉国家が陥る「死のスパイラル」が起きている。といっても、ギリシャだけの問題ではない。だからこそ、ギリシャの財政危機によって世界の株式市場が混乱し、経済危機からの復活の芽が脅かされている。

 アメリカを含む事実上すべての先進国が、ギリシャと同じ現実──高齢化で医療費と年金の支出がかさみ、税収だけではまかないきれない──に直面している。今回、財政破綻の危機に陥ったのはギリシャだったが、ほとんどの富裕国に同じような未来が待ち受けている。

 国家が過剰な支出や借金を永遠に続けることはできない。なのに、政府は歳出削減と増税という厳しい決断を先延ばし、自ら袋小路に入り込んでいく。

裏切られたユーロへの過剰な期待

 ギリシャの財政危機は単一通貨ユーロの危機と論じられることが多いし、確かにそういう側面はあるが、それは真実のごく一面だ。

 ユーロは2002年に多くの期待を背負って導入されたが、通貨統合の効果は当初期待されたレベルには程遠い。ユーロの登場によって各国通貨を両替する手間とコストがなくなり、経済成長が促進されるだろう。さらに、政治的な統合も進む。単一通貨によって「ヨーロッパ人」のアイデンティティが生まれ、ドイツ人、イタリア人、スペイン人といった区別は徐々に消えていく──。

 そんな夢が語られたが、実際にはどれも現実になっていない。ユーロ圏諸国の経済成長率は1992〜2001年には平均2.1%だったのに対し、ユーロ導入後の02〜08年は1.7%。経済成長を阻む大きな要因はばらばらの通貨ではなく、税率の高さや規制の多さ、助成金の垂れ流しだった。
 
 政治的な統合についても、ユーロはむしろ欧州を分断している。ギリシャでは暴動が勃発し、ギリシャ救済に1450億ドルを拠出した国々、とりわけドイツでは、多額の支援融資に怒りが渦巻いている。

 単一通貨によってヨーロッパ人のアイデンティティが形成されるという発想は、コカコーラを飲んでいるからアメリカ人だというのと同じレベルだ。もしポルトガルやスペイン、イタリアがギリシャと同じ運命をたどれば(つまり、市場の信頼を失い、国債利回りが大幅に上昇すれば)、危機はさらに拡大するだろう。

ギリシャと他国に本質的な違いはない

 問題の本質はユーロではなく、財政赤字と公的債務にある。そして、それを生み出す元凶は、失業保険や高齢者支援、医療費など近代国家が提供する社会保障制度だ。

 各国ともすでに莫大な財政赤字をかかえており、その懐事情は不況で一段と悪化している。ギリシャはその度合いが際立っていたが、他国の事情もそう大差ない。ギリシャの09年の単年度の財政赤字はGDP(国内総生産)の13.6%。累積の公的債務はGDPの115%に達した。一方、スペインの財政赤字もGDPの11.2%で、累積公的債務は53.2%、ポルトガルはそれぞれ9.4%と76.8%だ(ちなみに、アメリカは算出方法が若干異なるが、それぞれ9.9%と53%だ)。

 国債に投資する銀行や投資家が懸念を募らせているのは明らかだ。高齢化の進行も、先行きへの不安をあおっている。ギリシャでは、05年には総人口の18%だった65歳以上の人口が、30年には25%になるとみられる。スペインでも、高齢者人口は17%から25%に上昇する見込みだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダックが日中最高値

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破

ワールド

トランプ氏、四半期企業決算見直し要請 SECに半年

ワールド

米中閣僚協議、TikTok巡り枠組み合意 首脳が1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中