最新記事

ジョブズ激やせの真相

アップルの興亡

経営難、追放と復活、iMacとiPad
「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

ニューストピックス

ジョブズ激やせの真相

やせ衰えたジョブズの姿に健康不安説が再燃。代替の利かないCEOに何かあったときアップルにそなえはあるか

2010年5月31日(月)12時06分
ダニエル・マギン

 トレードマークの黒のタートルネックはだぶつき、ブルージーンズはたるんで顔もやつれて見えた。アップルの創業者でCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズ(53)が6月に講演したとき、彼のねらいは199ドルの新型iPhoneを売り込むことだった。だが講演が終わると、聴衆の話題はiPhoneと同じくらい彼の健康問題に集中した。

 病気の噂は、今に始まったことではない。4年前のちょうど今ごろ、アップルはジョブズが膵臓癌と診断されたと発表した。通常は死にいたる病だ。当時ジョブズは、彼の癌は治療可能な性質のもので、手術で「完治」したと語った。

 6月の講演後、ジョブズが「やせ衰えていた」ことが話題になると、アップルの広報担当者は「普通の風邪」のせいだと語った。だがこの説明は、先週あるアナリストが同社のピーター・オッペンハイマーCFO(最高財務責任者)にジョブズの健康状態について質問したときには消えうせていた。オッペンハイマーは代わりにこう答えた。「スティーブはアップルを愛している。スティーブの健康状態は個人的な問題だ」

 アップルの株価はたちまち下がりはじめた。

 CEOの健康状態について投資家が神経質になるのはいつものことだ。とりわけ、ジョブズのように代替が利かないと考えられている経営者の場合には。企業統治の専門家によれば、CEOは自分の病気について取締役会には知らせておく義務があるが、職務を継続している間は一般に公表する法的な義務はないという。

探偵まで雇った投資家

 だが一部の専門家は、ジョブズはアップルにとってあまりに重要な存在なので、彼が病気なら株主には知る権利があると言う。「彼はアップルそのものだ」と、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ前会長は先週、本誌に語った。「(その健康は)まちがいなく公的な問題だ」

 健康不安説がまちがっている可能性もある。ニューヨーク・タイムズ紙は先週、ジョブズが友人に語った言葉として、体重が減ったのは消化器系の手術を受けたせいで、癌が再発したためではないと報じた。もしジョブズが深刻な病気なら、広報担当者がそれを単なる風邪と呼ぶようなことをアップルの優秀な弁護士たちが許すはずがないという見方もある。「積極的な虚偽発言」は集団訴訟の対象になりかねないと、コロンビア大学のジョン・コフィー教授(証券取引法)は言う。

 それでも投資家の心配は収まらない。03年にジョブズの癌が見つかったときも、アップルが発表したのは9カ月後だった。ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、複数のヘッジファンドは探偵を雇い、ジョブズがどのくらい頻繁に医者に行くかを確かめようとしているという。

アップルの成功と一体視

「普通の風邪」から「ノーコメント」へ、アップルのコメントが急変したことに不吉さを感じる人もいる。「彼らはすでにジョブズの健康状態についてコメントした。それが今になって沈黙するのは、それ自体がある種のコメントのようなものだ」と、エール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド副学部長は言う(アップルは本誌にもコメントを拒否)。

 ジョブズがこれほどアップル成功の支柱とみられていなければ、市場もこれほどいらだちはしなかっただろう。ジョブズは細部にまで口を出すタイプの経営者で、アップルのあらゆる革新に功績があるとされ、それを自らも主張してきた。その後継者に関して明確な計画を示さないことで、アップルは批判を浴びている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相の解散判断「容認」、議員定数削減前でも=吉

ワールド

米が111億ドルの武器売却手続き開始、台湾国防部発

ワールド

トランプ米政権、一部帰化者の市民権剥奪強化へ=報道

ワールド

豪ボンダイビーチ銃撃、容疑者親子の軍事訓練示す証拠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中