最新記事

温暖化、もっと心配したら?

温暖化「うま過ぎる話」

エコ助成,排出権,グリーンニューディール
環境問題はなぜ怪しい話や
誤解だらけなのか

2009.11.24

ニューストピックス

温暖化、もっと心配したら?

気温上昇の影響を甘くみてCO2削減に反対するアメリカ農業界を待ち受ける干ばつや害虫だらけの破滅の道

2009年11月24日(火)12時03分
ジェニーン・インターランディ

 ちょっとした温暖化なら農業には好都合と思うかもしれない。栽培可能な期間が長くなるし、暖かくなって大気中の二酸化炭素(CO2)も増える。それを嫌がる作物があるものか----これがアメリカ農業界の基本見解だ。しかし、温暖化が農業に与える影響は実際にはかなり複雑で、そしてほとんどは好ましいものではない。

 アメリカ農業界の大部分は、「温暖化は嘘だ」「収穫量が増えるからいいじゃないか」といった理由から、温室効果ガス排出削減に向けた行動に強く反対してきた。農業州選出の議員の多くは、排出量制限の免除などの妥協を引き出した後も、50年のCO2排出量を05年比で83%削減するワクスマン・マーキー法案に反対票を投じた。だが、もし農業従事者が温暖化の影響について心配していないのなら、それは間違いだ。

 確かに一部の作物はより暖かい気候のほうがよく育つが、あくまでそれは一部。07年の米政府報告書によれば、大気中のCO2濃度が上がり、栽培可能な期間が長くなれば、5大湖周辺の果物収穫量は増える。だが米国内で栽培されているサトウキビやトウモロコシなどの主要作物は既にCO2を十分に吸収しており、大気中のCO2が増えても大きな変化はない。

 気温上昇がもたらすのは、むしろそれに伴って増える干ばつや害虫、大嵐だ。

アーモンド収穫が20%減

 干ばつが増えれば、特に南部の州では作物の収穫量が減る。オレゴン大学の研究によれば、ニューメキシコ州だけでも河川水量の減少で農家の損害が2100万ドルに上る可能性がある。

 害虫は気温の上昇に合わせて移動パターンを変えるため、農家は農薬の使用量を増やすか、もっと丈夫な種類の作物に替える必要に迫られる。洪水やハリケーンの頻度や規模が増せば、さらに多くの作物が失われるし、米連邦作物保険プログラムも多額の保険料支払いが日常化するだろう。

 東西両海岸沿いの農家は既に、化石燃料の多用がもたらす悪影響を受け始めている。これらの地域の作物(東部のクランベリーや西部のアーモンド)が育つには一定の寒い日が必要で、寒い日が少な過ぎると開花が乱れ、受粉に影響が出る。カリフォルニア大学デービス校の研究によれば、カリフォルニア州セントラルバレーでは冬の寒い日が既に30%減少し、アーモンド農家の収穫量が昨年より20%減ったという。

 これほど農業に影響がある温暖化関連法案なのに、農業州がやっていることといえば、法案を自分たちの好みに変えることばかりだ。

農業界も化石燃料中毒

 彼らの要求に応え、ワクスマン・マーキー法案は農業界の排出量制限を免除。どのような活動をカーボン・オフセット(温室効果ガス排出を相殺するための削減活動)として認めるかの決定権も、環境保護局ではなく農務省に譲った。土中からのCO2放出を防ぐため、農地を耕す代わりに農薬を使う無耕農業もカーボン・オフセットとして認めた。

 一部の農家や農業州の議員は、植物は光合成でCO2を酸素に変えるのだから、農地は放出する以上のCO2を吸収している、と主張してきた。確かに正しいが、あくまで理論上の話でしかない。

 光合成が行われるのは植物の葉の部分。茎や根などその他の部分は呼吸しており、他の生物と同じように酸素を吸ってCO2を吐き出している。植物が放出する酸素の量が吸収するCO2の量をどれだけ上回るかについては、まだ科学的にはっきり解明されていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省

ワールド

再送トランプ氏、中国の関税合意違反を非難 厳しい措

ビジネス

FRB金利据え置き継続の公算、PCEが消費の慎重姿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中