最新記事

鳩山政権「亀井外し」が始まった

オブザーヴィング
鳩山政権

話題の日本政治学者
トバイアス・ハリスが現在進行形の
「鳩山革命」を分析する

2009.10.26

ニューストピックス

鳩山政権「亀井外し」が始まった

亀井の金融モラトリアム法案に対し、政権内にいる経済・金融の実務家たちが反撃の狼煙を上げた

2009年10月26日(月)15時36分

[2009年10月1日更新]

 総理大臣に就任して2週間が経ち、鳩山由紀夫は重要な教訓を学んだはずだ。重要な政策課題は自分で提起しなければ、ほかの誰かがやってしまうということだ。

 鳩山政権で重要施策を打ち出したのは、亀井静香郵政改革・金融担当大臣だった。鳩山政権の課題は山ほどあるが、亀井が提唱する零細・中小企業への返済猶予(モラトリアム)が、優先課題のトップに浮上したのは明らかだ。

 9月28日、与党の党首級閣僚が出席した基本政策閣僚委員会の初会合の後、亀井は鳩山が自分と「同じ意見」だったと述べた。さらに、この計画は私案ではなく、連立政権発足前の三党合意に基づいていると主張した。

 鳩山は、モラトリアム計画が三党合意に含まれていたことは否定したが、中小企業の資金繰り対策に取り組むことは認めた。また、元本と利子の支払いを猶予する亀井案に対して、元本の支払いのみを猶予する法案を検討すると示唆した(実際、鳩山は衆院選前の地方遊説でモラトリアム制度を支持する発言をしており、その様子を映したユーチューブの投稿に池田信夫がリンクを張っている。時事通信も鳩山の過去の発言を報じた)。

首相自身はどっちつかず

 ただし、鳩山は同時に「しっかりとした議論」が必要だとも語っている。つまり問題は、鳩山が亀井に同調してモラトリアム計画を推進していることではない。鳩山が指導力を発揮していないことだ。彼はトラブルから距離を置こうとしているように見える。

 これが、「平等な閣僚のなかの議長」的な位置づけにある首相の姿なのだろう。閣僚に命令を下す代わりに、鳩山は彼らに政策をつくらせようとしている。

 現在、モラトリアム法案の行方を担っているのは大塚耕平・金融副大臣。金融機関による貸し渋り・貸しはがし対策の検討チームの責任者として、10月9日までに制度の原案をまとめる。日本銀行出身の大塚は中小企業が借金返済の条件変更をしやすくする仕組みをつくりたいとしながらも、銀行に返済猶予を一律に義務付けることには否定的な発言をした

 亀井は大塚の姿勢を歓迎しておらず、副大臣にそんな発言をする「権限はない」と攻撃的な態度でけん制した

 亀井は今後も間違いなく発言を続けるだろうが、大塚が率いるチームが法案を検討している今、亀井一人に関心が集まることはないだろう。私が予想したように、政府は亀井に対する反撃を開始したようだ。
 
 副大臣に権限を与えることがなぜ鳩山政権にとって重要なのか、そして大塚と旧大蔵省出身の古川元久が政権の中枢である内閣府副大臣を務めることがなぜ重要なのか今後明らかになってくるだろう。実務レベルに経済や金融の専門家がいることは、政権を強化するうえで計り知れない力になる。

 亀井は今後も戦い続けるだろうし、鳩山はいずれ明確に意思表示をする必要に迫られるだろう。だが鳩山政権はひとまず、重要な問題の主導権を亀井から取り戻す第一歩を踏み出したようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中