最新記事

鳩山+小沢政権の弱みと強み

オブザーヴィング
鳩山政権

話題の日本政治学者
トバイアス・ハリスが現在進行形の
「鳩山革命」を分析する

2009.10.26

ニューストピックス

鳩山+小沢政権の弱みと強み

不安もあるが、悲願の政治主導を実現できれば内政・外交上の課題を解決できるかもしれない

2009年10月26日(月)15時35分

 9月16日に発足した鳩山内閣の顔触れを見ると、鳩山由紀夫新首相は内閣の頭上にそびえる大統領スタイルの首相からは程遠く、対等な閣僚のなかのまとめ役のように見える。いわば、強力な政治家が居並ぶ委員会の委員長のような存在だ。

 重要ポストは、民主党で最も経験豊かな議員で占められている。彼らが小沢一郎幹事長の「子分」ではなく自らグループを率いる地位にあることも、小沢の強引な干渉をはね返す強力な内閣をつくるためには決定的に重要だ。

 幹事長として小沢がどんな役割を果たしていくのかはまだはっきりしない。内閣と与党を厳しく分けると小沢は強調するが、小沢が役割分担をきちんと守り、政策決定プロセスに立ち入らないかどうかは分からない。西松建設の献金問題を受けて小沢が代表を辞任した際の藤井裕久元蔵相の動きを理由に、藤井の財務相就任に小沢が難色を示したとされる一件は、そうした不安を裏打ちしている。

 ただ同時に、小沢の関心は既に来年夏の参議院選挙に移っており、だとすれば政策に干渉する時間やエネルギーはそれほど残っていないかもしれない。鳩山から国会対策を一任された小沢は、内閣の決定に「拒否権」を発動できる権限を持つが、今のところ挙党一致体制を維持する目的以外にその力を使おうと計画している証拠は見当たらない。

 鳩山政権の成功と失敗を左右する要因は何か。新政権の発足に当たってそれをまず考えてみる価値はあるだろう。

弱み

 政権基盤を揺るがし、寿命を縮めかねない大きな弱点は以下の3つとみることができる。

(1)鳩山由紀夫

 私は以前から鳩山の指導力を疑問に思っているが、それを覆してくれるような変化は今日まで何もない。

 特に心配なのは、メディアとの付き合い方だ。9月14日の「ぶら下がり取材」でも、小沢「代表代行」を「代表」と言い間違えた。些細な失言だ。疲労のせいかもしれないし、肩書が紛らわしいせいかもしれないし、今年5月まで小沢が代表だったときからの癖かもしれない。

 問題は、鳩山はしゃべり過ぎる傾向があることだ。衆院選の選挙期間中、党内からは鳩山に記者会見をさせるべきではないという意見も出た。しゃべり過ぎて、後で撤回や修正をする羽目になるからだ。首相へのぶら下がり取材を見直すことも考えているようだが、代わりにどんな取材機会をつくるのかは明らかではない。しまいには、メディアから隠れ通し、姿を現すときも自由な取材をほとんど許さなかったアメリカのブッシュ前政権のようになるのだろうか。

 しょせん民主党は、鳩山を世間の詮索からかばい通すことはできない。「故人献金」問題もまだ解決していないのだ。それにもし鳩山が政権を掌握できていないと映れば、メディアは当然、求心力のなさを激しく批判するだろう。鳩山の考えでは、彼は対等な閣僚のなかの1人かもしれないが、やはり首相はどうしても一番でなければならない。

 どうしたら、首相が内閣より見劣りしてしまうことを防げるのだろうか。鳩山が定期的に公の場に出る場合、民主党は政権に打撃となる失言を封じつつ、いかにして「情報開示の徹底」という公約を維持できるのだろうか。

 「委員長」型の首相であるとしても、内閣をリードするのが鳩山の役目である点は変わらない。金融・郵政改革担当相に任命された亀井静香が具体的にどの政策を担当するかなど、論争になりかねない問題にケリをつけ、閣僚同士の意見が一致しない場合は鳩山自身が決断を下さなくてはならない局面もあるだろう。

 9月18日、閣議を終えた亀井が他の閣僚への批判と受け取られかねないコメントを発していたのは、内閣のまとめ役としての鳩山の技量を測る上では期待できる兆候とは言えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアの衝突続く、トランプ氏が停戦呼びか

ワールド

再送-タイとカンボジア、停戦協議の即時開催に合意 

ワールド

韓国、対米通商交渉で相互に合意可能な協定案準備 大

ビジネス

中国工業部門利益、6月は前年比4.3%減 マイナス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 2
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 3
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や流域住民への影響は?下流国との外交問題必至
  • 4
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    運転席で「客がハンドル操作」...カリフォルニア州、…
  • 9
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「電力消費量」が多い国はどこ?
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 5
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 6
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 10
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中