最新記事

中国の消費は世界を救えない

ポスト胡錦濤の中国

建国60周年を迎えた13億国家
迫る「胡錦濤後」を読む

2009.09.29

ニューストピックス

中国の消費は世界を救えない

住宅や自動車の販売好調で8%成長を維持する見込みの中国経済。だが輸出は激減し消費も弱く、頼みは政府の景気対策なのが実情だ

2009年9月29日(火)13時00分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 中国の消費者はついに、浪費家のアメリカ人消費者と並んで世界経済を救う存在になるのだろうか。統計数字を一見すると、まさにそのように見える。

 アメリカの消費者が自宅の資産価値の下落や金融資産の目減りを心配して家に引き籠もっている間にも、中国人は大挙して買い物に出掛けている。中国では住宅や車の販売急増に伴い、5月の小売売上高は前年同月比15・2%増と急伸した。一方で5月の輸出は前年同月比で26・4%も激減しているのに、今年の経済成長率は最高8%に達する可能性もある。これを、急成長する中国の中間所得層が景気回復を牽引するまでの力を付けた証拠とみる専門家もいる。

 本当にそうなら、中国の製造業にとっても現地進出しているマクドナルドにとっても朗報だ。だが、間違えてはいけない。中国の好況を牽引している真の浪費家は、個人ではなく政府。実際、中国共産党ほど自由にお金を使える政権党は世界でもほかにない。2兆謖近い外貨準備がある上、予算に文句をつける野党もいないからだ。

 中国の景気対策はGDP(国内総生産)の4%の規模で、2%のアメリカの倍。アメリカと違って、財政支出を増やすために外国からの借り入れに頼る必要もない。公共投資は今年初めに比べて30%増加し、鉄道や道路への支出は過去1年間で倍以上に増えた。

 資金難で操業できない工場の支援や従業員の再教育向けに、補助金の支出も急増している。不動産市場も好調だ。銀行に貸し出しを命じる行政指導と政府自らの融資、さらに不動産減税が重なってアパート販売は急増。政府は車や冷蔵庫を買うためのクーポン券まで配っている。

 中国経済が回復しているのは本当で、世界にとって素晴らしいニュースだが、中国がいまだに対米輸出に依存しているのも事実。政府の大盤振る舞いのおかげでその実態が見えにくくなっているだけである。

 世界的な景気後退で、中国の輸出の約4分の1を担う南部の製造・輸出拠点は大きな打撃を受けている。5つ星ホテルは空室だらけで、職業紹介所には失業した出稼ぎ労働者があふれている。

 広東省の工業地帯を流れる珠江も、以前より暗く見える。川沿いのホテルやレストランが放つけばけばしいネオンの明かりの多くが、「電力節約のため」消されてしまったからだと、広東省外事弁公室副主任の蘇才芳(スー・ツァイファン)は言う。「われわれはまだまだ輸出に依存している。特に対米輸出にね」

 率直なコメントだ。だとすれば、中国の中間所得層が全米の中・低所得の消費者層「ウォルマート・ママ」に取って代わりつつあるという専門家の意見はかなり怪しくなる。珠江河口の工場集積地、珠江デルタ周辺の政府関係者たちからは、以前は輸出していた家電製品や安い衣料品や靴を、湖南省や四川省で売りさばかなければならない苦労話を何度も聞いた。

危機に強い一党独裁体制

 それでも、国内の売り上げは国外の巨大市場に比べればごく僅か。関係者の多くは、アメリカ市場の回復には何年もかかり、しかも以前の水準には2度と戻らないだろうと感じている。そして中国市場が一定の規模に達するまでにも、長い時間がかかるだろうと。

 「金融危機の前でさえ、アメリカ以外の市場を開拓する必要性は感じていた」と、ナイン・ウエストやコーチの靴の多くを生産する華堅集団のアラン・ラム副部長は言う。「だが、中国市場が国内産業を支えるほど大きくなるには、5年か8年はかかるだろう」

 中国の消費者がアメリカの消費者と肩を並べるようになるまでには、おそらくもっと長い時間がかかる。中国人の所得はアメリカ人のざっと10分の1。個人消費の総額はアメリカの12兆謖に対し1兆7000億ドル(07年)ほど。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ

ワールド

イタリアが包括的AI規制法承認、違法行為の罰則や子

ワールド

ソフトバンクG、格上げしたムーディーズに「公表の即
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中