最新記事

「覇者の驕り」──GM凋落の原点

ビッグスリー
転落の構図

世界最大のGMも陥落へ
米自動車20年間の勘違い

2009.04.08

ニューストピックス

「覇者の驕り」──GM凋落の原点

GMの首切りを批判したマイケル・ムーア監督の『ロジャー&ミー』から2年。再び7万4000人の大量解雇で「小回りの利く企業」へ変身を目指す

2009年4月8日(水)17時19分
ラリー・ライブスタイン

 ゼネラル・モーターズ(GM)の新工場開設が、希望と繁栄の象徴だった時代を覚えているだろうか。

 五〇年代初頭、GMがテキサス州アーリントンに工場建設を決めたとき、地元住民はまさにそう感じた。「アーリントンの小さな週刊新聞が創刊以来初の号外を出したほどだった」と、同市商工会議所のトム・バンダーグリフ会頭は回想する。

 当時のGMの心配は万事が好調すぎることぐらい。アメリカで売れる車の二台に一台はGM製で、政府当局や競合企業は企業分割をささやきはじめていた。

 だが今日、アーリントン工場はGM衰退の象徴だ。人々の口にのぼるのは、どうやって大会社の歩みを緩めるかではなく、いかにして業績悪化を食い止めるかである。

 昨年の北米部門の赤字は七〇億ドル(約九一〇〇億円)と空前の額に達したもようだ。ロバート・ステンペル会長としても、今後三年間に二一の工場を閉鎖し(アーリントンも含まれそうだ)、七万四〇〇〇人を解雇するという抜本的対策をとるしかなかった。

 この大合理化は、GMにとって三五%の現行シェアの維持さえ危ういことを認識したためのものだ。これでGMは長期的には、小回りの利く企業になるだろう。だが、同じくアメリカ有数の企業であるIBMが大幅な人員削減策を発表した直後とあっては、国際競争に対処しきれない米産業界の苦悶をますます印象づける結果となった。

日本車への対応不足が衰退の第一原因

 こうした事態にいたった背景には根深いものがある。七〇年代の日本車の進出に対し、GMは対応を誤った。官僚的体質のために品質が悪くスタイルも古くさい車を消費者に押しつけて、数十年来の信頼を損ねた。さらに、日本が対米輸出を規制すると、その機に乗じて値上げを実施した。

 生産自動化こそ打開策だとして、八〇年代には産業ロボットなどのハイテク設備に巨額の投資を行ったが、GMの生産性は今も米自動車業界で最低である。

 もちろん、日本企業はGMと同じ土俵で勝負してきたわけではない。GMは巨額の年金コストと工場老朽化という重荷を抱える一方、日本のメーカーは政府の支援と低利の長期資金に恵まれていたからだ。

 この数年、GMはキャデラック・セビルのように品質やスタイルを大幅に改善したニューモデルも登場させてきた。だが、その点は日本のメーカー同様である。GMが消費者の心を取り戻すのは容易ではない。

 かつてのGMは、消費者の声に機敏に対応する企業との定評があった。各部門も独立していたが、六〇年代には官僚的な巨大企業になり、本社の財務担当役員が幅を利かせはじめる。七〇年代の二度の石油ショックへの対応も鈍く、低燃費車への転換が遅れた。

 アナリストのロナルド・グランツは、「GMの経営陣はつい一〇年前まで、真のアメリカ人なら外国車など買わないと言っていた」と語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中