最新記事

ファンドが買ったクライスラー 常識外れの再建策

ビッグスリー
転落の構図

世界最大のGMも陥落へ
米自動車20年間の勘違い

2009.04.08

ニューストピックス

ファンドが買ったクライスラー 常識外れの再建策

企業再建ファンド、サーベラスの奥の手とは、資産の切り売りでもリストラでもなく、車の自社生産をやめることかもしれない

2009年4月8日(水)16時46分
キース・ノートン(中西部総局長)

自動車生産も外注する時代? 07年、クライスラー車の組み立てライン
Rebecca Cook-Reuters

 ヘンリー・フォードは1920年代にミシガン州ディアボーンの巨大なリバールージュ工場で、一貫生産・大量生産という自動車産業の基礎をつくり上げた。河川の合流地点にある敷地の片側では鉄鉱石やゴムなどの原料を満載した貨物船がドック入りし、その場で自動車用に加工する。そして反対側にある組立工場からは、49秒に1台のペースで黒く輝くA型フォード(T型フォードの前身)が吐き出されてくるのだった。

 インターネット時代の夜明けには、マイケル・デルが製造業に新しいモデルをもたらした。デル社のパソコン生産にはものの数分しかかからない。回路基板や躯体、メモリーなどの中核部品はサプライヤーに作って届けさせ、後は組み立てるだけだからだ。ただし車は黒塗り以外つくらなかったフォードと違い、デルは顧客が希望するスペックどおりのパソコンを受注生産する。コンピュータ企業のあり方を再定義したデルの功績は歴史に残るものだ。

 今、クライスラーの新オーナーとなるサーベラス・キャピタル・マネジメントは、自動車企業の何たるかを再定義すると宣言している。5月14日、企業再建の手腕と秘密主義で知られるウォール街のプライベートエクイティ(未公開株)ファンドが74億ドルでダイムラークライスラーのクライスラー部門を買収することが明らかになると、デトロイトにはさまざまな憶測が乱れ飛んだ。

車の自社生産をやめよう

 サーベラスは、クライスラーの再建を通じて従来のデトロイトにはなかった新しいビジネスモデルをつくり上げるとみられている。現にヘンリー・フォードのモデルを今も引きずるゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラーのビッグスリーは、06年に合わせて160億ドル以上の赤字を出した。「クライスラーだけでなく、デトロイト全体の流れを変える事件だ」と、自動車アナリストのジョン・カセサは言う。

 だが、過去15カ月で35億ドルの赤字を出したクライスラーをいかにして再建するのか。経営者のクビを切るのではない。クライスラーのCEO(最高経営責任者)、トム・ラソーダは留任する。さらなる人員削減もしない。ラソーダがすでに決定した1万3000人の人員削減で打ち止めにすると、サーベラスの創業者スティーブン・ファインバーグは労働組合に口頭と書面の両方で約束した。

 サーベラスはそれよりも、業界の常識を覆すような疑問を呈して瀕死の米自動車業界に活を入れようとしていると、業界関係者は言う。「そもそも、自動車会社はすべての車を自社生産する必要があるのか」、というのがそれだ。

 この問いは、業界を一変させる可能性を秘めている。ビッグスリーは今、乗用車からトラックまで各社があらゆる種類の車をつくり、その大半で赤字を出している。それよりは、利益の出る車だけを自社生産し、後は開発とブランドで稼ぐ会社になれないか。顧客が気にするのはしょせん製品とブランドと価格だけ。誰が生産したかは気にしない。それなら、開発して売ることに専念すればいい。

 デトロイトでは異説かもしれないが、家電業界やパソコン業界ではよくあることだ。GMがクライスラー・ブランドのSUV(スポーツユーティリティー車)をつくり、クライスラーがGMブランドのミニバンをつくっていけない理由がどこにあるのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過激な言葉が政治的暴力を助長、米国民の3分の2が懸

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、7月は前月比で増加に転じる

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中