コラム

移民がアメリカを「侵略」してくるってホント?(パックン)

2019年08月24日(土)17時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Immigrant "Invasion" Rhetoric / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<アメリカへの難民・移民の流入を「侵略」と呼んで危機を煽るトランプ。しかし彼らは本当に「敵」なのか>

国が侵略されたらどうする? 外国軍が国境を越え、制覇を目指して攻撃してくる! 国民生活を脅かす存亡の機だ! 国民は武器を持ち抵抗するだろう。

アメリカはいま「難民・移民」という名の侵略を受けている。まあ、軍ではなく、子連れの家族が来ているけど。それも、戦って制覇するのではなく、保護を求めて米政府に従う。米国民の皿を洗い、芝を刈り、子供の世話をしたりして生活を支えているし、国民の雇用を増やし、平均収入や生活水準を上げる効果もある。存亡の機というより、繁盛の起源なのだ。

でも、恐るべき侵略だよ! 大統領がそう言うのだから間違いない。

ドナルド・トランプ米大統領は会見でも集会でもツイッターでも、アメリカへの難民・移民流入を「侵略」と言う。対策も取る。「国家の危機」を宣言して、国境へ軍を派遣し、国境の壁建設のために軍事予算を充てる。国境を越える全員を拘束する方針に変え、施設の定員を超えても、子供も含む「敵」を大量に収容する。その環境や管理がひどくて、この1年間で少なくとも7人の移民の子供が施設で亡くなっている。ちなみに最近、同じく移民の子供であるバロン・トランプはモンゴルの大統領からポニーを贈られたよ。ハッピー!

必死の戦いに国民も協力してくれるよう大統領は求めている。トランプの選挙陣営は今年に入ってから、「侵略を止めないと!」と行動を喚起する広告を2000回以上、フェイスブックに載せている。今年3月からだけで、こんな広告に125万ドルもかけているという。ポニーよりも高い!

当然この状況では「愛国者」が立ち上がる。8月3日、テキサス州エルパソのウォルマートで男がメキシコ人8人を含む22人を撃ち殺した。容疑者は「ヒスパニックの侵略」に立ち向かうという犯行予告を掲示板サイトに出した白人主義者とされる。

トランプの呼び掛けと乱射事件は関係ないと、政府も容疑者も主張する。そうかもしれないが、大統領と容疑者の言動は共に今のアメリカを象徴するもの。風刺画が示すとおり、Uncle Sam(アメリカを擬人化したキャラクター)も途方に暮れるはずだ。地面には、殺人現場で死体の位置を示すチョークアウトライン。3人家族の構図は、不法移民が走り渡る幹線道路にかつて設置されていた「移民飛び出し注意」の標識と同じだ。侵略軍には見えないね。

【ポイント】
SHOOTER TARGETS MEXICANS

銃撃犯はメキシコ人を標的に

WHAT HAVE WE BECOME?
われわれは一体どうなってしまったんだ?

<本誌2019年8月27日号掲載>

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プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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