コラム

トランプが戦没者墓地を訪問しなかった理由(パックン)

2018年12月06日(木)18時40分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

The Reason Trump Skipped It / (c) 2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプは人種、性別、民族、宗教、性的指向、ジェンダー、身体的な特徴など国民の「違い」を強調して、分断を深刻化させている>

11月10日、フランスで第1次大戦終結100周年の行事に参加したドナルド・トランプ米大統領は恒例の米戦没者墓地への訪問を取りやめた。理由は「雨が降っていたため」。なるほど。核の傘があっても、雨には利かないからね。帰国後の「復員軍人の日」にも恒例のアーリントン国立墓地(Arlington National Cemetery)訪問をしなかった。今度は「電話しなきゃいけなかったため」。なるほど。私用スマートフォンでの会話が中国に盗聴されていると報じられたから、電話を取り上げられたかな......。

と、僕は納得していたが、風刺画家は違う理由を推測。墓地に眠っている戦没者はほとんど big Hillary supporters(熱狂的なヒラリー支援者)だと読んだトランプは、skip it(飛ばしちゃおう)と訪問の見送りを決めている。死んだ人が誰を支持したって関係ないと、突っ込まれそうなところだが、共和党は選挙不正の1つとして「死者が投票している」とよく騒ぐ。トランプも大統領選挙の直後にそう主張し、「大規模な捜査をする」と公言した。もちろん、そんな実態もないし、捜査もしない。

皮肉にも、逆のことは起きている。10月に、ネバダの州議会議員選挙に共和党から立候補した売春宿のオーナーが残念ながら亡くなってしまった。にもかかわらず......3週間後の中間選挙で当選した! つまり、死んだ人が投票することはないが、生きている共和党員が死んだ人に投票したのは間違いない。

間違いなのは、風刺画で描かれているトランプの姿勢だ。連邦大統領なのに(トランプは「POTUS45=第45代大統領」)自分を支持しない人の味方をしない、黒人や女性をけなす、性転換を認めない、アメリカで生まれた外国人の子供の米国籍を否定するなどなど、人種、性別、民族、宗教、性的指向、ジェンダー、身体的な特徴といった国民が持つ「違い」をもって一部の人を敵視し、国の分裂を深刻化させる言動を繰り返している。

同時に、一部の国民だけを守り続ける。それは自分の base(政治基盤)。歴代大統領は偏った表現を避け、「みんなの代表」のイメージを重視したが、トランプは一部の人に有利な政策を取っている上、「The Trump base is far bigger & stronger(トランプの政治基盤はより強大になった)」とツイートしたりして、「一部主義」の意識を垣間見せる。

忘れられても、侮辱されても、戦没者はおそらく気にしない。でも、トランプは気を付けるべきだ。同じ扱いをされたら、生きている国民は気にする。そして投票をする。

<本誌2018年12月06日号掲載>


※12月11日号(12月4日発売)は「移民の歌」特集。日本はさらなる外国人労働者を受け入れるべきか? 受け入れ拡大をめぐって国会が紛糾するなか、日本の移民事情について取材を続け発信してきた望月優大氏がルポを寄稿。永住者、失踪者、労働者――今ここに確かに存在する「移民」たちのリアルを追った。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米航空管制システム刷新にRTXとIBM選定の可能性

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株の底堅さ好感 個別物色が

ビジネス

中国CATL、5月に香港市場に上場へ=関係筋

ワールド

米上院、トランプ関税阻止決議案を否決 共和党の造反
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story