コラム

政治家の失言は「真意と違う」では済まされない

2016年02月22日(月)15時40分

閣僚らの失言が続く中、丸山議員の「奴隷」発言は安部政権にさらに追い打ちをかけた Toru Hanai-REUTERS

 政治家の失言が止まらない。自民党だけではない。先に記しておくと、民主党の中川正春衆議院議員は、甘利明・前経済再生相が「睡眠障害」と診断され1カ月程度の自宅療養に入ったことになぞらえて、「首相の睡眠障害を勝ち取りましょう」と発言した。愚言にも程がある。

 歯舞諸島が読めなかった島尻安伊子沖縄北方担当相、福島第一原発事故をめぐる追加被曝線量の年間1ミリシーベルトについて「何の科学的根拠もない」と言った丸川珠代環境相など、相継ぐ閣僚達の失言に政権が手を焼いていたところに発せられた中川議員の発言は、政権に"チャンス"を与えた。19日の衆議院予算委員会で安倍首相は、この中川議員の発言を「人権問題だ」とし、政治家は「与党・野党を問わず」発言に気をつけるべきだ、と述べるに至った。失言を問い詰めてくる側から出てきた失言を加味させて、政治家全体の問題に膨らませることができた、というわけ。

 度重なる失言の中でも国際関係までも揺るがしかねないのが、自民党・丸山和也参議院議員が17日の憲法審査会で発言したオバマ大統領への人種差別発言だろう。発言が「アメリカは黒人が大統領になっている」(19日・朝日新聞)、「今、米国は黒人が大統領になっている」(20日・東京新聞)、「"オバマ氏黒人奴隷"発言」(17日・NNNニュース)などと報じられたことに対して、当の丸山議員は「問題を引き起こしやすい発言をしたと反省しているが、批判は見当違いだ」(19日・東京新聞)と開き直った。その割には、憲法審査会を即座に辞任、菅義偉官房長官、谷垣禎一幹事長、稲田朋美政調会長などのお偉いさんから、会見や口頭でそれぞれ注意を受けている。

 政治家の諸先輩方に対しては「これは見当違いです」とは言えなかったようだが、彼はメディアの伝え方が見当違いだったと憤っている。このところ、政治家が失言を発する度に、自分の真意はそういうことではない、恣意的な引用で記事にされてしまったと苦言を呈し、何でもかんでも「マスゴミ」バッシングに繋げたがる人たちと結託する場面が増えている。

プロフィール

武田砂鉄

<Twitter:@takedasatetsu>
1982年生まれ。ライター。大学卒業後、出版社の書籍編集を経てフリーに。「cakes」「CINRA.NET」「SPA!」等多数の媒体で連載を持つ。その他、雑誌・ウェブ媒体への寄稿も多数。著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。新著に『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』(青弓社刊)。(公式サイト:http://www.t-satetsu.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story