コラム

軽減税率適用を懇願する新聞・出版の低姿勢

2015年10月21日(水)17時30分

消費税増税が新聞・雑誌の販売落ち込みに直結することは想像に難くないが…… Shaun Lombard-REUTERS

 消費税率10%増税時に、飲食料品に限定する形で2%分を還付する財務省案は、マイナンバー制度推進との抱き合わせが露骨すぎてさすがに却下された。ICカードに消費税額のデータ情報を蓄積し、インターネットを通じて還付金額を請求する仕組みを作るという、まったくとんちんかんなものだった。

 軽減税率を訴えてきた公明党からの要請に応え、政府は10%増税時の軽減税率導入へと方針を切り替えた。税制調査会長を、軽減税率導入に慎重だった野田毅から推進派の宮沢洋一に交代させる露骨な人事を行なっている。麻生太郎・財務大臣は先日の講演で、軽減税率について「これは言っときますけど、財務省は反対ですよ、ほんとは。(中略)『めんどくせえ』って、みんな言ってるよ」と相変わらずのべらんめえ口調で愚痴っているが、この発言を逆さに問えば、財務省案ならば自分たちは面倒ではなかったわけで、消費税を取り戻したいんだったら、消費者に多少の面倒をしてもらわないと、というスタンスだったのだろう。

 公明党が主張してきた軽減税率の導入に移行したことをふまえ、山口那津男代表が出演したテレビ番組で「新聞や書籍は民主主義の基礎を支え、必要な情報を国民に提供する制度的なインフラだ。(対象品目に)基本的には入れるべきだ」(東京新聞・10月18日)と発言した。軽減税率が導入されるとなれば、どの範囲まで適用となるかの判断に議論が集中する。いや、議論というより、国民には可視化されない攻防が続く。

 たとえば「外食や酒を除く食料品に適用」という説明は国民にも通りが良いが、果たしてそこまでクリアなものなのかどうか。斎藤貴男『ちゃんとわかる消費税』の中では、魚が軽減税率の適用となったと仮定して「スーパーに行けば、魚はたいてい、トレーに載って、ラップで包まれて売っています。では、このトレーは軽減税率になるのでしょうか。トレーの会社は当然、適用してください、と言ってくる。ラップ業界だって黙っていない。産地シールを作る会社だって」、との事例が予測されている。

 仮に「魚は対象、酒は対象外」と制定されたところで、魚も酒も、それだけで商品として売られるわけではない。ありとあらゆる仲介業者が入る。対象となる品目の周辺でビジネスをする人々は、当然のように、自分たちの品目にも軽減税率の適用を求めてくる。すると、どうなるか。『消費税が日本を救う』の著者・熊谷亮丸は、その著書名が示すように消費増税推進派だが、複数税率の導入に反対しており、その理由のひとつとして「政治的影響力の大きい圧力団体をバックに持つ品目についてのみ軽減税率が適用されるという、不公平が生じることが非常に懸念される」点を挙げている。

プロフィール

武田砂鉄

<Twitter:@takedasatetsu>
1982年生まれ。ライター。大学卒業後、出版社の書籍編集を経てフリーに。「cakes」「CINRA.NET」「SPA!」等多数の媒体で連載を持つ。その他、雑誌・ウェブ媒体への寄稿も多数。著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。新著に『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』(青弓社刊)。(公式サイト:http://www.t-satetsu.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

AIを国際公共財に、習氏が国際機関構想アピール A

ワールド

トランプ氏、エヌビディアの最先端半導体「中国など他

ビジネス

サハリン2のLNG調達は代替可能、JERAなどの幹

ビジネス

中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予想も下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story