コラム

ロシアが拡大NATOを恐れない理由

2022年05月31日(火)17時23分

ロシア人は「われわれ対世界のメンタリティー」と、他国にはまねできない過酷な禁欲主義で苦境を生き延びる力に誇りを持っている。西側の結束は、ロシア国内のプーチン支持を強化するだけなのかもしれない。

プーチンは生き延びて権力を確実に握り続けるためには手段を選ばないストリートファイターだ。いま彼に圧力をかけているのは、戦争反対を叫ぶ国内のリベラル派ではなく、右派、すなわちもっと激烈かつ大々的な攻撃を求める軍部である。

ロシア軍は攻撃計画の規模縮小に不満を募らせている。彼らはキーウを掌握し、政権幹部を処刑する当初の計画をあくまで完遂する構えだ。軍部はロシア連邦保安局(FSB)がプーチンに誤情報を与えたために初期の作戦が失敗したとして、自軍が受けた損害を全てFSBのせいにしている。

軍部に言わせれば、これはロシア対ウクライナではなく、ロシア対NATOの戦いだ。それゆえ総力を挙げてウクライナをたたきのめし、地上から消し去らねばならない。ある著名な退役軍人は動画でプーチンに直訴した。「親愛なるVV(プーチンの愛称)、どうか決めてください。本格的に戦うのか、それとも自慰行為をするのか」

軍人たちは陰では戦略を変更したプーチンをもっと口汚く罵っている。プーチンが政権の座に就いてからこの2022年、シロビキ(軍や情報機関のエリート)が彼に不満を抱いたのはこれが初めてだ。

だがプーチンがウクライナの大半を制圧するか、徹底的に破壊して二度と欧米に近づかないようにする気なら、ロシア最強の勢力、砲弾と核を持つ勢力が全面的にバックアップするだろう。

西側の制裁がロシア経済を締め上げている? いやいや、ルーブル相場は私がロシアを去った日より75%上がっている。侵攻前日と比べてもほぼ30%の上昇だ。ロシアの資本規制は段階的に解除されつつある。それを支えるのはエネルギー価格の高騰だ。ロシアのエネルギー産業は侵攻前より儲かっていて、ロシア政府の税収は大幅に増える見込みだ。

ロシア軍の残虐行為にもかかわらず、世界の大半の国々はウクライナにもロシアにも味方していない。3月に国連総会でロシア非難決議が採択された際、棄権に回った35カ国のほぼ半数はこのアフリカ勢が占めた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、支援的な金融政策に期待

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調

ビジネス

米家計・銀行・企業の財務状況は概ね良好=クックFR
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story