コラム

トランスジェンダーは男女どちらで参加すべき? 性別と五輪をめぐる建前と本音

2021年08月24日(火)15時00分

ハバードは東京五輪で「記録なし」に終わった EDGARD GARRIDOーREUTERS

<生まれた時の性別か現在の性別か。アメリカの世論も悩む難題を考える上で大切なこと>

8月8日に閉幕した東京五輪では、いくつかの明白な、議論の余地のない結果が出た。

例えばアメリカは今回もメダル獲得数世界一の座を守り、インドは期待を裏切る成績に終わり、開催国の日本は金メダル獲得数3位という驚異的成功を収めた。

一方、大いに議論の余地がある出来事もあった。男性として生まれ、その後性別を変更したニュージーランドの重量挙げ選手ローレル・ハバードは、女性として五輪に参加すべきだったのか。

トランスジェンダーの選手が女性として五輪に参加することは許されるのか。私は政治学者の1人として、日頃から膨大な時間をかけて世論調査を追い掛けているが、トランスジェンダー選手に対するアメリカの世論は見事にばらばらだ。

20%のアメリカ人は、トランスジェンダーの選手は現在の性別で参加すべきと考えている。39%は生まれたときの性別で参加すべきと答えた。14%はそもそも五輪に参加すべきではないと主張し、23%はどう考えるべきなのか分からず困惑している。

全体的には、人々の見方がハバードの参加を認めたIOC(国際オリンピック委員会)のルールに沿った方向に進んでいることは間違いない。IOCは勇気ある組織でも世論を主導する存在でもないが、社会の変化を反映した決定を下す傾向がある。東京五輪では142人の選手がLGBTなどの性的少数者であることを公表した。この数字は過去の全夏季大会の合計より多い。

さて、この問題についてどう考えるのが正しいのか。東京五輪は、ジェンダーとスポーツの難しい関係を浮き彫りにする具体的事例だった。

個人的にも、自分の心の奥にある偽善を突き付けられる経験をした。筆者の心に最初に浮かんだのは、テストステロンの値を重視するIOCのルールに合わせればいいという考えだった。性別を変更した選手が生物学的に女性なら、女性として競技に参加してもいいのではないか、と。

だが、競技のパフォーマンスはテストステロン値だけでは決まらない。陸上のウサイン・ボルトや水泳のマイケル・フェルプスは、それぞれの競技で最もテストステロン値が高かったと言い切れるだろうか。

ハバードは35歳まで男性だった。1990年代末には男子ジュニアの国内記録を樹立している。もし以前にハバードが男性としてメダルを掲げる映像を見ていたら、筆者は女性としての五輪参加を受け入れただろうか。もしハバードが金メダルを獲得していたら、考えを変えていたかもしれない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story