コラム

トランプが負けると思う人に贈る「再選のシナリオ」

2020年08月29日(土)17時30分

オハイオ州の空港に到着したトランプを歓迎する人々(8月6日)JOSHUA ROBERTSーREUTERS

<側近の逮捕が続くドナルド・トランプは今年の大統領選挙に全てを懸けて臨む>

2020年米大統領選の情勢を占う上で最も重要な指標の1つは、「いかさまヒラリー」と「寝ぼけたジョー」のグーグルでの検索頻度を比較した棒グラフだ。

16年大統領選の共和党候補トランプ(当時)が民主党候補クリントンに付けた蔑称は、最も頻繁に検索されたキーワードの1つだったが、今回のバイデン前副大統領に対する蔑称はほとんどチェックされていない。

20200901issue_cover200.jpg

単純なフレーズで政敵をおとしめる名人であるトランプは、戦術の失敗に気付き、代わりに「のろまなジョー」を使うようになった。バイデン候補の最初の公の場での演説(民主党全国大会での大統領候補指名受諾演説)は、1980年代に大統領選に初めて出馬して以来の思いを見事に表現したものだったが、9月29日から始まる予定の3回の大統領候補者討論会でも同レベルの説得力とエネルギーを発揮しなければならない。そこでアメリカ史上最高齢の候補者が口ごもれば、トランプの追い上げを許すことになる。

トランプ支持者が2回連続の逆転勝利を期待できる根拠はほかにもある──。

①トランプの平均支持率は2期8年務めた過去3代の大統領(クリントン、ブッシュ息子、オバマ)より低いが、大きく劣っているわけではない。再選に失敗した過去2代の現職大統領(ブッシュ父、カーター)よりはやや上だ。それを考えれば今回の大統領選は五分五分の戦いとみるべきであり、投票日が近づくにつれてバイデンのリードは消えていく可能性がある。

②トランプは最近、バイデンをもうろくした老人扱いする戦術に出ていたが、右派のFOXニュースでさえ称賛したバイデンの指名受諾演説によって、この主張は(少なくとも討論会が始まるまで)説得力を失った。そこでトランプはすぐに作戦を変え、47年間に及ぶバイデンのワシントンでの政治経験を強調するようになった。中央政界での経験が長い候補者は、過去11回の大統領選で9回負けている。トランプが「バイデン=既得権益層のプロ政治家」というイメージを植え付けられれば、接戦に持ち込める可能性はある。

③現時点でアメリカの現状に満足している有権者は20%しかいない。しかし、再選を目指していたオバマもこの時期の有権者の評価は似たようなものだったが、投票日に向けて支持率を大きく伸ばした。新型コロナウイルスのワクチン開発が一気に進展したり、経済が予想以上のペースで回復した場合、トランプの支持率はオバマ以上に急上昇するかもしれない。

④共和党の大きな武器の1つは、熱心な支持者が必ず投票することだ。今回の選挙は郵便による投票が多数を占める可能性があり、この前代未聞の展開を考えれば、世論調査の信頼性は通常より低いはずだ。投票が困難になったり、選挙の手続きが異例のものになればなるほど、トランプ勝利の可能性は上がる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story