コラム

中間選挙で見えた、強気を装うトランプの脆弱な足元

2018年11月15日(木)15時40分

その点で見逃せないのは、今回の中間選挙で民主党が州レベルの選挙で大きく躍進したことだ。注目されていたフロリダ州とジョージア州の知事選は期待を裏切られる結果になったが、コロラド、イリノイ、メーン、ニューメキシコ、ネバダ、ニューヨークでは、州知事、州上院、州下院の3つを全て掌握することに成功した。

これにより、民主党は国政レベルでもトランプの政策に対抗しやすくなる。さらに、これらの州では20年の下院選に向けて有利な状況をつくり出せるし、大統領選と議会選で支持を掘り起こすための強力な基盤も手にできた。

疑惑調査が本格化する?

民主党にとってフロリダ州知事選を落としたのは想定外の痛手だったが、同州からは朗報もある。同時に実施された州民投票の結果、州内で刑期を終えた元受刑囚の選挙権を(一定の条件の下で)回復させる州憲法改正が決まった。これで選挙権を取り戻す人は140万人以上。大半が民主党支持者だと思われる。これが将来の選挙で効いてくるかもしれない。

ジョージア州知事選も、結局は共和党のブライアン・ケンプの当選が決まる可能性が高そうだ。そのケンプは州内の選挙事務を取り仕切る州務長官として、有権者登録のハードルを厳しくし、実質的にマイノリティー(少数派)の投票を制約してきた人物である。

現職州務長官のケンプが職にとどまったままで選挙に臨んだことから、知事選の公正さを疑う声も上がっている。この問題で注目が集まれば、州務長官としてのこれまでの行動も批判を浴びるかもしれない。批判が勢いを増せば、有権者登録のハードルを下げる制度改正が実現しないとも限らない。もしそうなれば、マイノリティーの支持率が高い民主党には好材料だ。

中間選挙の結果の中で最も大きな意味を持つのは、民主党が下院を制したことにより、各委員会の委員長ポストが民主党に回ることだ。

下院が調査権限を全面的に活用するようになれば、トランプの運命が大きく暗転する可能性もある。これまでの2年間、トランプは共和党主導の下院の協力により、司法妨害疑惑や税務・ビジネス関連の問題など、さまざまな法律的問題から守られてきた。しかし、今後は全て丸裸にされて、事によると弾劾裁判にかけられる可能性も出てくる。

トランプが中間選挙で上げた成績に関して、私はほかのアメリカ政治専門家たちが与えたのより高い点数を付けていいと思っている。しかし、今回の選挙結果は、2年後の大統領選でのトランプの再選と今後の生き残りに暗い影を落とす。

トランプ自身もこのことに気付いているように見える。選挙後の記者会見では、メディアに対して冷静さを失う一幕があった。これは、相変わらず強気な態度とは裏腹に、下院や州政治の新しい現実を突き付けられて内心は狼狽していることの表れなのかもしれない。

<本誌2018年11月20日号掲載>


※11月20日号(11月13日売り)は「ここまで来た AI医療」特集。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」として人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story