コラム

「小さな男」トランプが支配するアメリカに、「大きな男」マケインの死が響く

2018年09月07日(金)15時45分

夫のひつぎに寄り添うマケイン夫人(8月29日、アリゾナ州フェニックス) REUTERS

<勇気、誠実、礼節......脳腫瘍で世を去ったマケインは、その死を侮辱した誰かとは違う器の大きい男だった>

ジョン・マケイン米上院議員の死に対し、2つの都市は対照的な反応を見せた。

マケインの家族が脳腫瘍の治療中止を公表したとき、首都ワシントンにある私が所属するジョージタウン大学では、彼の勇気と誠実さ、礼節を褒めたたえ、時代を代表する偉大な政治家の1人と評価する声であふれ返った。人々はベトナム戦争で捕虜になったときの勇気あふれる行動、財政改革と移民制度改革に注いだ情熱を称賛した。

08年の大統領選で見せた品位ある振る舞いも話題になった。共和党の大統領候補だったマケインは、民主党のバラク・オバマ候補に対する不安を表明する支持者の発言を遮り、「彼は善良な男です。政策上の意見が私とたまたま違うだけです」と諭した。

オバマの勝利が決まると、美しい敗北宣言の演説を行った。マケインはオバマの資質と彼が当選した意味について、自分の政策よりも多くの時間を割き、全てのアメリカ人に党派間の分断の克服と団結を訴えた。

一方、私が特別教授を務める学術機関があるロシアの首都モスクワでは、反応が大きく異なっていた。マケインは有名な「ロシア嫌い」であるだけでなく、政治的な負け犬だという評価が目立った。マケインは大統領になれなかっただけでなく、閣僚の経験すらない。政策面でもほとんど成果を上げていない。イラク戦争についても判断を誤り、開戦を支持した。

最晩年のマケインは上院でトランプ大統領に反対していたが、08年大統領選で当時のアラスカ州知事サラ・ペイリンを副大統領候補に指名した本人の判断が反知性主義、反移民、ポピュリズムの台頭を招き、結果的にトランプ大統領の登場を可能にした。そんな人物がなぜこれほどの敬愛と喝采を集めるのか、疑問視する論調が多かった。

ある人物の正当な評価を知りたければ、故人をよく知る人々の反応を見るといい。民主党のチャールズ・シューマー上院院内総務は、政策面では長年マケインの政敵だったが、すぐにマケインの名を上院議員会館に冠するべきだと表明した。大統領選で争ったオバマやブッシュだけでなく、マケインがベトナム戦争中に拷問を受けた捕虜収容所の元所長までが哀悼の意を表明した。

マケインは何度も選挙に負けた。戦争や政策をめぐる誤りもあった。だが、彼は常に「大きな男」だった。

マケインの評価がここまで真っ二つに割れるのは、「見たいものを見る」人間の性質のせいでもある。トランプ支持者は、私がロシアで耳にしたものと同様の反応を示すはずだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story