コラム

「解任好き」トランプはロシア疑惑の特別検察官もクビにする?

2018年03月31日(土)14時30分

ムラーの捜査チームはフェアでプロフェッショナルとの評判だが… Joshua Roberts-REUTERS

<ロシア疑惑のムラー特別検察官をトランプが解任したがっているのは明らかで、政治的・法律的な壁は高いものの強行策に出る可能性も>

どんなに偉大な寓話作家でも、トランプ時代に生きる不条理に匹敵する虚構を創作することはできない。私はトランプ政権についての文章を書くとき、可能な限り締め切りを先に延ばす。1つのツイッターのつぶやきやスタッフの解任、非常識な記者会見によって、政治状況が一変する可能性が常にあるからだ。

なかでも3月第4週は特に目まぐるしい1週間だった。中国との貿易戦争、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の解任発表、バイデン前副大統領に対し、ツイッターで「ぶちのめす」と脅し、ロシア疑惑を担当するトランプ弁護団の筆頭弁護士ジョン・ダウドの辞任――。

全て私が国際線の旅客機に乗っていた間の出来事だ。トランプ時代には、2時間ニュースに触れていないだけで変化に付いていけなくなる。

ダウドは1週間前、記者に送った電子メールでロシア疑惑の調査の完全な終了を主張したばかりだった。その数日後に辞任した理由は、ムラー特別検察官に対する「ツイート攻撃」を控えるようにという助言を大統領が拒否したからだ。

対決姿勢を強めるトランプは3月18日、ついにツイッターでムラーを名指しで非難した。「なぜムラーのチームには強硬な民主党員が13人もいるのか? その一部は邪悪なヒラリーの有力支援者で、共和党員はゼロ......これで公正と言えるのか?」

ムラーの捜査は「完全な魔女狩り」だと言いたいらしい。政治評論家の間では、「解任好き」のトランプがムラーについても解任準備を進めているとの観測が浮上した。

立ちはだかる訴訟の壁

与党・共和党にはムラーを擁護する声が多いが、大半の議員は短気な大統領から特別検察官を守る立法措置には及び腰だ。同党の重鎮リンゼー・グラム上院議員は、「特別検察官保護法」のアイデアを披露した。特別検察官の解任権限を持つ司法長官または副長官が実際に解任手続きに入る際には、複数の連邦判事で構成される委員会の審査を義務付けるというものだ。

だが、共和党上下両院のリーダーであるマコネル上院院内総務とライアン下院議長は、口ではムラー支持を唱える一方、この法案の審議は拒否した。

トランプは昨年6月にもムラーを解任しようとしたことがある。このまま行けば特別検察官の解任は避けられないような空気だが、実際には(不可能ではないが)かなり難しい。

ムラーは在任期間が最も長いFBI長官経験者の1人。これほど長く公職にありながら、誠実な人柄を疑われたことが1度もない、極めてまれな人物だ。

トランプとその周辺を除けば、ムラーの捜査チームと接触した人々はフェアでプロフェッショナルな仕事ぶりだったと口をそろえる。トランプが本気でムラーを解任したければ、政治的な泥仕合に持ち込む覚悟が必要だ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは144円近辺へ上昇、日銀会合後に円

ビジネス

テスラ会長、マスク氏の後継CEO探し否定 報道は「

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ビジネス

NZフォンテラの消費者事業売却、明治など入札検討か
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story