コラム

北欧の廃墟でフィクションのポートレートを撮る意味

2017年05月17日(水)15時52分

From Britt Marie Bye @bybrittm

<北欧の白夜の柔らかい光がつくり出す神秘的な世界。ノルウェーのブリット・マリー・バイが撮るのは、単に美しい光景ではない>

今回取り上げるのは、ノルウェーのオスロ在住の写真家、ブリット・マリー・バイ(39)。彼女の作品の舞台はスカンジナビアの美しい自然である。北欧特有の、いつまでも黄昏が続くかのような、あるいは実際に白夜で、どこまでも限りなく柔らかい光がつくり出す神秘的な世界だ。

そんな世界でバイが焦点を当てているのは、何十年も見捨てられ続け、朽ち果てたままになっている家やトレーラーハウスである。バイ自身、そうした廃墟を撮影することに中毒的にさえなっているという。

とはいえ、正直に言えば、彼女の作品にときどき魅力は感じても、どっぷりはまり込んでしまうほどではなかった。確かに北欧独特の柔らかい光に包まれた森、湖、山々は非常に魅力的だが、写真家が写真家であるための"写真を超える何か"を感じることはできなかったからだ。それがなければ単なる写真機と光の操り師になってしまう。

【参考記事】新聞社の元・報道写真家がSNS時代に伝える「写真を超えた何か」

150年前ならいざ知らず、インスタグラムで一瞬にして写真が世界を駆け巡ることができる今の時代、単なる美しいものやエキゾチックなものを切り取るだけでは、誰かの焼き直しのさらなる焼き直しになってしまう。もちろん、それも写真ではあるが、写真家としては失格なのである。

だが、それは私の誤りだった。見落としだった。

バイはインスタグラムで発表する作品に、ポートレート・シリーズ――正確にはフィクション・ポートレート・シリーズと言ったほうがいいが――を取り入れ、さらなる奥行きを出していたのである。

それにより生み出されているのは、本当の意味での北欧の自然の神秘性だ。目に見える神秘性でなく、目に焼きつく光景の裏に広がる、種々の神秘的な物語である。それをバイは、自らの世界観に基づいて、北欧の自然、廃墟、フィクション・ポートレートという3つの要素の中で表そうとしていたのだ。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story