コラム

「HELLO, OUR STADIUM」新国立競技場の妙な英語──これで東京五輪を迎えるの?

2019年12月26日(木)11時15分

アメリカ人だという@am_kazさんから興味深い指摘がありました。21世紀あるいは20世紀のシンプルな機器を使う際に、見下すようなメッセージ(説明)を下手な英語で伝えることはまさに日本っぽい、という意見でした。

確かに、日本独特の何でもかんでも説明したり注意したりする傾向は、外国人である私にとって非常に目に付きます。

例えば、エスカレーターに乗っているときに聞こえるアナウンスは、正直いつも怪訝に思っています。「黄色い線の内側に立ってください」とアナウンスが流れますが、ステップのアウトラインが黄色い線で縁取られており、その外側に立つことは不可能ではないでしょうか。

子供を持つ親なら、「お連れのお子様と手をつないでください」と言われなくても最初から子供と手をつないでいるでしょう。静かにエスカレーターに乗りたいと思いますし、そこまで言わないと利用者は分からないと考えているのかと、私はいつも疑問です。

説明不要なほど使い方が簡単な水飲み場にこのようなくどい説明を書くことは、確かに似たようなもので、外国人から見れば余計なお世話と思われる可能性があります。どこにどんな訳を付けるかを決めるときに、この点もぜひ考慮していただきたいものです。

◇ ◇ ◇

報道によれば 、新国立競技場を作るには1569億円もの費用が掛かったようですが、施設内の英語表示を作ることには十分な予算を付けなかったのではないかと思われます。

かつて日本に住んでいたイギリス人コンサルタントの@pernilleruさんが、ファイナンシャル・タイムズ記者のツイートを見て「プロにお金を使う『無駄』を省き、翻訳を社内で済ませるという習慣が続いているようですが、それが日本のブランディングなのかもしれませんね」と皮肉っぽくツイートしていました。

確かに「社内翻訳」をしている日本企業は非常に多いのですが、ぜひ再考していただきたいやり方です。

オリンピックの際に日本の誇りとなるはずの新国立競技場にまで、妙な英語が溢れているのは非常に残念です。ちょっとしたことで印象は全然異なります。世界に見せる日本が少しでも良く見せられるように、細部にまで気を配ってほしい。

オリンピック関連の他の施設の英語表記はどうなっているかと、それも心配になりましたが、修正するための時間はまだあります。担当者の方々には、ぜひがんばっていただきたく思います。

2019123120200107issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。

プロフィール

ロッシェル・カップ

Rochelle Kopp 北九州市立大学英米学科グローバルビジネスプログラム教授。日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートするジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の創立者兼社長。イェ−ル大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営大学院修了(MBA)。『英語の品格』(共著)、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』(共著)など著書多数。最新刊は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story