コラム

利下げをめぐるトランプ政権とFRBの不毛な争い

2026年01月14日(水)14時15分

捜査に対して利下げをめぐる政治的圧力だと反発したパウエル議長 Craig Hudson-REUTERS

<次世代のアメリカの産業構造を見直すせっかくのチャンスなのに、トランプ政権は政治的圧力でFRBを抑え込もうとしている>

アメリカのトランプ政権と中央銀行に当たる連邦準備理事会(FRB)は、利下げ問題をめぐって延々と対立を続けてきました。その対立は遂にFRBのパウエル議長に対する刑事捜査という形にエスカレートしています。容疑は、連邦準備制度本部ビルのリノベーションに関して、事実と異なる議会証言をしたというものですが、政治的圧力以外の何物でもないと受け止められています。

対立の構図ですが、トランプ政権としては、何としても今年11月の中間選挙で勝利したい、そのためには仮に景気が減速しているのなら、早めに金利を下げて景気を刺激したいという立場です。一方で、パウエル議長以下のFRBとしては、景気にはまだまだ勢いがあり、焦って金利を下げると景気は加熱してバブル化し、かえってインフレを招くとしています。ですから、利下げには慎重なのです。


政権の側は非常に神経質になっており、雇用統計で失業率が高めに出たり、過去に遡って数字を下方修正するようなことが起きると統計当局を叱ったりしています。とにかく景気に翳りがあるのなら、対策を講じて回復しないと選挙に負ける、そのような切迫感を持っているようです。

中間選挙を控えて神経質になるトランプ政権

ですから、雇用統計に少しでも悪い数字が出ると、それは景気減退の兆候だから、金融緩和、つまり金利の引き下げを行いたいという判断になります。そうなのですが、実際にアメリカ社会に起きているのは別のメカニズムだという考え方もあります。それは、雇用が悪化するのは景気減退のせいではなく、景気は依然として強いのだがAIが初級レベルの知的雇用を奪っているからという仮説です。

つまり、四大卒の新卒の就職が難しくなるとか、金融テック関連の産業で大規模なリストラが進んでいるのは、景気が低迷しているのではなく、各企業がAIによる生産性向上を狙っているからだという説明です。仮にこうした要因が強いのであれば、パウエル議長のように金利引き下げには慎重にならないと、激しいインフレを招く可能性は否定できません。

では、トランプ政権の側が一方的に間違っているのかというと、必ずしもそうではないと思います。グローバリズムで空洞化した製造業を国内に回帰させるとか、エリート大学への補助金を絞る代わりに、ブルーカラーの職業訓練に予算を回すといった政策は、当初は「アンチ・エリート」というメッセージに過ぎないと思われていました。ですが、AIが大卒の知的初級職にここまで影響を与えている中では、政策として全く別の、そしてプラスの意味合いを持ってきているのです。そう考えると、好景気のもとでの雇用低迷という現象は、現政権の政策と整合性を持ってくるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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