コラム

円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?

2025年12月17日(水)15時00分

一方で円高になると、物価は沈静化する一方で、多国籍企業の株価や業績は収縮して見えるというデメリットが出てきます。それ以上に危険なのは、「日本売り」の可能性です。現在は、日本の株や不動産に巨額の海外マネーが流入しています。特に不動産は海外マネーによるバブルが進行中だとも言えます。

仮に、この後、顕著な円高、例えばドル円で130円とか115円といった水準まで円が上昇した場合には、多くの海外投資家は「利益を確定させる」ために、不動産や株を売ってくる可能性があります。特に不動産についてバブル化した部分については、海外マネーは何とか売り抜けるよう機敏に動くでしょう。


そうなれば、不動産のバブルが崩壊して、現在の中国や90年代の日本ほどではないにしても、金融秩序が揺らぎ、不動産や建設業界が激しく動揺する事態を招く可能性があります。

最良の為替レートはドル円130~155円程度?

例えば引退を表明した投資家のウォーレン・バフェットは、トランプ政権が極端なドル安を望んでいることを批判しながらも、安くなるリスクのあるドルを嫌って円に投資しているとしています。一見すると日本経済を評価し期待しているようにも見えますが、冷静に考えればバフェットの発言は、円安の際に日本に投資して円高になったら売り抜けるという宣言と見たほうが良さそうです。

そう考えると、日本経済にとって安心できる為替レートとしては、ドル円で130円から155円というような狭いゾーンになると考えられます。今回の日銀の決定により、何とか為替レートがこのゾーンの中で落ち着くことで、大きな動揺が回避されることを祈るばかりです。

その上でなんとか時間を稼ぎ、その間に日本国内の産業構造を変えて、生産性を向上させて次の時代に備えることが必要になります。考えてみれば、アベノミクスの時代には「第三の矢」すなわち、構造改革というのはなかなか実績を出すことができませんでした。

現在でも、デジタル化がなかなか効率化の成果にならない中で、日本経済の大きな柱であった自動車産業は脱内燃機関の動きに翻弄されています。今こそ、構造改革を進めて、一人あたりGDPにおける縮小トレンドを止めることが大切だと思います。

【関連記事】
サッカーをフットボールと呼ばせたいトランプの執念
アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

率直に対話重ね戦略的互恵関係を包括的に推進=日中関

ワールド

豪ボンダイビーチ銃乱射事件、容疑者を殺人など59件

ビジネス

12月の日銀利上げ織り込み済み、「注目はペースと到

ビジネス

インタビュー:次期中計で純利益2兆円視野、実力切り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story