コラム

大谷翔平の今後の課題は「英語とカネ」

2024年03月27日(水)14時00分

2つ目は、大谷選手を取り巻く情報の動きが見えないということです。例えば、大谷選手が水原元通訳の問題を知ったのは、韓国で本人から告白を受けた時点だという説明が疑われています。具体的には、水原元通訳がテレビ局のESPNの取材に応じて、ギャンブル依存症であると告白を行った時点でも、あるいはドジャースのクラブハウスで選手たちの前で告白を行った際にも、大谷選手には内容が伝わっていなかったようですが、これが不自然だと思われています。


野球に専念する一方で、英語に関しては公私ともに水原元通訳に一任していたということであれば、理解できるのですが、一般のアメリカ人からすれば7年もアメリカにいるのだから、英語は理解するだろうし、怪しい、おかしい、となるわけです。さらには、大谷選手を代表して契約交渉など一切を仕切っているエージェントから大谷選手に何らかの情報なりアドバイスが行くとか、あるいはエージェントが会見などを仕切る、弁護士とのチームを組むと言った動きが見えないということもあります。

こうした問題も、これまでは水原元通訳が全て間に入っていたので、コミュニケーションができていたが、彼が不在となった今では、大谷選手には何の情報も入らないし、まして、エージェントや弁護団とのチームワークが可視化されることもないというのが現状だと思います。ですが、アメリカの一般世論としては、大谷選手がそこまで英語をスルーしているというのは、全く考えられないので、何かある、何かを隠している、不自然だということになるのです。

日本式の美学は理解されない

これからの推移としては、大谷選手自身がここまでキッパリと疑惑を否定しているので、これ以上、問題が悪化する可能性は少ないと思います。ですが、今回の事件を契機として、明らかに一般のアメリカの野球ファンからは、全く英語を話さないとか、カネについては完全に人任せにしているような人物は信じられないというリアクションが出てきたのは事実です。そして、陰謀論好きな時代のカルチャーや人種差別的な感覚がこれに乗っかっています。

そこには正義はないし、むしろ誤った偏見であることは確かです。ですが、今回の事件を一つの契機とすることで、大谷選手はできるだけ早く通訳を必要としない状態に持っていくこと、ファンと英語でダイレクトに交流ができるようにすることは大切だと思います。

野球はアメリカの国技(ナショナル・パスタイム)です。日本の大相撲でモンゴル出身の力士や親方が、難なく日本語でコミュニケーションを取っているように、そしてそのことを日本の相撲ファンが好感を持って受け止めているように、大谷選手の英語での肉声をテレビインタビューなどで聞きたいというファンの気持に応えていければ様々な雑音は消えていくでしょう。

あくまで野球に専念するのが正しいというのが日本式の美学というのは、分からないでもありません。ですが、少なくとも英語で生活し、自分のカネ勘定には責任を持つというのは、アメリカにおける社会人として必要な義務です。そして、経済効果ということでも、社会的な影響力ということでも、大谷選手にはそのような義務が課せられているのは事実であり、そこから逃れることはできないと思います。そもそもは、そうした重要な点、つまり英語とカネの問題で他人に頼ったことが、ここまで深刻なトラブルを招いた元凶だというのは、やはり事実だと思います。

【関連記事】
「大谷翔平に賭けて大儲け」 海外で人気のスポーツ賭博...億単位を稼いで「勝ち組」になった米男性の告白
大谷翔平の「男気」巨額契約は本当に美談なのか?

ニューズウィーク日本版 Newsweek Exclusive 昭和100年
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月12日/19日号(8月5日発売)は「Newsweek Exclusive 昭和100年」特集。現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story