コラム

ようやくトランプ批判の合唱が始まった、第2回共和党予備選テレビ討論会

2023年09月28日(木)15時40分

7)中絶禁止の住民投票で敗れ続けた問題は、民主党の悪口ではなくリーダーシップ不在の反省(この問題に消極的なトランプへの批判)にすり替えられた。

8)ラムスワミの放言が封じ込まれたことで、ウクライナ支援への反対論はかなり抑え込まれた。

9)インフレの問題は、バイデンの悪口というよりも、原油価格の話になって、改めて国内の石油を掘れという話にすり替わっていた。

10)トランプ批判は全面解禁というムードだったが、4件の起訴、特に議会暴動への関与問題など具体的な罪状の話題はゼロ。党内の分断を避ける配慮があったか。

11)数回あった休憩時間(CMタイム)の間中、デサンティスとヘイリーは、ずっと2人だけの会話を続けていた。何らかの協定を模索している可能性があるという見方も。

「トランプ下ろし」が始まるか?

とにかく、筋書きが見られなかった前回の討論とは違って、全員がそれなりに「脱トランプ」を明確に宣言し始めたのは事実です。また、ウクライナ支援の問題、NATOなど西側同盟の維持など、基本的な政策については、団結して共和党を「トランプ前」の状態に戻そうという意思も感じられました。そうした意思というのは、おそらく今回の討論を担当したFOX、主催した共和党全国委員会、そしてメガドナーと呼ばれる高額献金者たちの間には、おそらくあるのだと思われます。

そうではあるのですが、現時点ではこの7名の支持率を合計しても、トランプにはまったく及ばないというのもまた現実です。本格的な予備選が始まるまで「まだ3カ月」あります。この間に、仮に民主党に世代交代の動きがあれば、共和党もこれを受けて本格的に「トランプ下ろし」が始まるかもしれません。

また、現在進行中の「つなぎ予算」問題で、共和党の右派は「政府閉鎖やむなし」という状況を人質に取って、議会全体を脅迫しています。これに対しては、共和党穏健派は民主党との妥協を模索し始めています。こうした議会の動きも、大統領予備選における「トランプ外し」と重なってくると思います。

いずれにしても、現在は60%の支持と一見盤石に見えるトランプ、また現職として無風状態にあるように見えるバイデンの2人とも、見えないところで「世代交代論」という爆弾を突き付けられているのは事実だと思います。今回の共和党テレビ討論で出てきた「反トランプの合唱」は、まだ大合唱には至っていません。ですが、残り3カ月の間には「何が起こるかわからない」というある種の予兆を感じさせるものではありました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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