コラム

ミャンマー情勢、日本外交の選択肢

2022年08月03日(水)15時30分

そんななかで、今回の死刑執行やスーチー氏収監、日本人拘束、そして中ロ接近という一連の事件で、流れはますます悪化しているように見えます。今後の日本外交の方向性についても、方向性を見極めるのは難しくなっています。

まず、このような軍政と内戦が続くのであれば、日本の進出企業は総撤退、ビジネスチャンスを求めてミャンマーに渡航した日本の人々も一斉に引き揚げというのが合理的なように思えます。

ですが、仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることになります。また、日本が総撤退してしまうと、ミャンマー経済が民主化以前の貧困状態に戻ってしまうことも考えられます。

軍政との関係維持の理由

ロヒンギャの人々の問題も難題です。彼らに対しては、民主派のNLDも軍政も同じように差別と弾圧を加える側です。かといって、隣国バングラデシュには彼らを支える力はありません。そんな中で、日本が全ての努力を放棄してしまうと、より深刻な人道危機が発生する可能性があります。

このように、日本外交が現在取っている方向性には、一応の理屈はあるわけです。国際的な非難を浴びている軍政に対して、一定の2国間関係を維持しているということにも、それなりの背景があるという見方も可能です。

そうではあるのですが、問題はそろそろ全体的に行き詰まりに来ていることです。今後のミャンマー外交をどうするのか、この辺りで総括をして国会などで包括的な審議を行なうべきです。安倍政権で外相を務めていた岸田首相は、この間のミャンマー外交について、当事者として深い理解をしているはずです。総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要があると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、中南米に空母派遣へ 軍事プレゼンス

ワールド

米朝首脳会談の実現呼びかけ、韓国統一相、関係改善期

ワールド

ロシア特使が訪米を確認、「対話継続を示す証拠」

ワールド

レーガン氏の自由貿易擁護演説が脚光、米カナダ間の新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story