コラム

あきれてモノも言えない、講演資料を官庁に「外注」する国会議員

2021年11月24日(水)14時40分

その意味で、野党議員も「執筆代行」の「恩恵」を受けていたという報道は重大だと思います。与党が指名した政府に対して、チェックを行う責任という点では、野党は与党より、より明確な付託を有権者から受けていると考えられるからです。その野党が、こんな形で省庁に「借りを作っている」というのであれば、それは三権分立への違反であり憲政への冒涜であると思います。

以上の原則論に加えて、気になるのは政治家とその秘書集団のスキル低下という問題です。支持者団体に出向いて挨拶をする、あるいは講演をするというのは、有権者の声を代表するのが本務である政治家にとって、重要なコミュニケーションの一環です。議員というのは、そうしたコミュニケーションのプロでなくてはならず、仮に議員本人だけで全てを回せなくても、その時のために秘書という制度があるわけです。

政治家と秘書のスキル低下

冷静に考えてみると話の全体が不自然です。例えば、ある政策に関して説明する講演に関して、「複雑な事情を1枚のスライドに押し込んで、実行不可能性を表現する」という「俗称ポンチ絵」というのは、確かに霞ヶ関の無形文化財かもしれません。ちなみに、この「ポンチ絵」に関しては、あまりにも利害関係や条件が込み入っていて、結局は実行不可能だということを異様に複雑なチャートのビジュアルで暗に示している例が多いのが特徴です。ですが、政治家の場合は選挙区事情というものがあり、特定業界の盛衰に関しては特に真剣に考えている姿勢を出すとか、どんなに精緻なスライドにしてもある程度ローカライズをしないと使えないはずです。

まして、支持団体への挨拶文などというのは、過去の経緯などを含めて、地元ならではの情報を踏まえないと挨拶にならないはずです。それにもかかわらず、事務所では対応できず、霞ヶ関でコンピュータ内のテンプレートを駆使して生産性を上げている官僚の方が「腕が上」というのは、何とも不自然です。これは「政治という業界」が必要な人材を集めることができていない証拠です。

国会議員には、議員1人あたり3人のフルタイム秘書について公費から給与が出ています。その秘書制度が機能していないケースがあるというのは、制度的な問題です。例えばですが、政治家本人に加えて秘書集団も加えた事務所として、どのような活動をしているのか、透明性を高めて民意の洗礼を受ける仕掛けが必要ではないかと考えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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